第163話 砂上の戦闘(22)
「……ううっ。ここは……」
屋上まで、男を担いで移動したあと、活を入れて起こす。
しばらく男の視線はぼんやりと中空を見ていたが、徐々に焦点があってくると周囲を見渡したあと――。
「ここは! どこですか! あなたは一体!?」
ようやく意識がハッキリしたのか大声で俺に話しかけてきた。
もちろん周囲には沈黙の魔法を展開していたので、俺達の会話が聞こえることはない。
「少し話を聞きたい」
「だから、貴方は一体!?」
「俺は冒険者ギルドに席を置くSランク冒険者のカズマと言う。お前に聞きたいことがある」
「冒険者ギルドの? Sランク? リーン王国には、Sランク冒険者はいないはずでは……」
「余所の国から来たからな」
俺は冒険者ギルドカードを取り出し男へ見せる。
まずは正攻法で情報を仕入れようと考えたからだ。
「たしかに……。だが! 何故に商業ギルドの建物に無断で立ち入るような真似をしたのだ?」
「魔王軍と戦っていた時に、エイラハブの商業ギルドが魔王軍と繋がっている可能性があるとタレコミがあってな」
「そんな馬鹿な……」
「だからこそ、話を聞きたい」
「なら、うちの商業ギルドのマスターにでも話を通した方がいいのではないのか?」
男の言っていることは、たしかに正しい。
「いや、もし魔王軍と繋がっているのがギルドマスターだった場合、情報操作される可能性が考えられる。だから、一般の事務方の人間に話を聞きたいと思ったんだ」
「…………分かった。――で、何を聞きたいんだ?」
流石は、Sランク冒険者ギルドカードの信頼度は高いな。
この時ばかりはSランク冒険者になっておいて正解だったと、ラムドに感謝しつつ男から情報を得ようと言葉を選ぶ。
「まず聞きたいことは、お前の名前だが」
「私は、ファウストと言う」
「――では、ファウスト。この文献だが――」
俺は、帳簿を見せる。
「帳簿ですか?」
「ああ。この取引品目なんだが、数か月前までは小麦を輸出していると書かれている」
「そのことですか」
「何か知っているのか?」
「知っているというか……。私達、商業ギルドの人間も、帳簿に書かれている内容については分からない事が多く――」
「どういうことだ?」
「砂漠に囲まれている街から小麦を輸出するという行いについてです。少し考えれば分かると思いますが、普通に考えて砂漠の真っただ中の街が穀物類などを栽培できるとは到底思えません」
「そこは俺も同意見だ。それと、エイラハブの街は思っていたよりも人が少ない気がするのだが?」
「それは、空き家が多いということですか?」
「端的に言えばそうなる」
「なるほど……、その点については先々月に街に到着した私達も気にはなっていたことです」
「どういうことだ?」
「このエイラハブの街は、数か月前から音信不通となっていたのです」
ファウストの言葉は、俺が想像していたものとは全く異なっていた。
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