第164話 砂上の戦闘(23)

「音信不通?」

「はい。やはり外部から来られた方ですか」

「そう説明したはずだが?」

「なるほど……。じつは、現在、エイラハブに駐屯しているのはアドリアから派遣された者達なのです」

「アドリア……」


 どこかで聞いた事がある。

 俺は記憶の糸を辿る。

 そこで思い至る。

 アドリアとは、アドリア王国の事だと。

 アドリア王国の王族は、王国を興す前には、どこかの国の公爵家だと聞いたことがあった。


「それは、アドリア公爵のことか?」

「は、はい。そうですが? 公爵様とお知り合いなのですか?」

「――いや。噂には聞いたことがあるだけだ。待て! つまり、現在、エイラハブに駐屯している兵士と商人は全てアドリア王国から派遣されてきたということか?」

「そうですが……」

「もしかして、エイラハブの街の住人は全員姿を消していたのか?」

「そうです。私達が来た時には既に……エイラハブの街には一人もいませんでした」

「なるほどな」


 ようやく合点がいった。

 どうりで獣人達と兵士達、そして商業ギルドの人間の話が食い違っていたはずだ。

 だが――、そうなると……。


「ファウスト、先ほど街の兵士から獣人が商業ギルドに来たと聞いたが、それは本当なのか?」

「はい。私達が、姫君を攫ったと言いがかりをつけてきて――、それで……」

「兵士に対処してもらったと?」

「そうです」


 ファウストの言葉を信じるならば、商業ギルドが何かに関与しているという可能性は少なそうだ。

 だが、問題は商業ギルドが獣人との問題に関わっていないのなら……。


「一つ聞きたい。商業ギルドは、獣人達を殺すように兵士達に依頼したのか?」

「――いえ。そのようなことは……」

「本当だな?」

「はい。彼らは曲りなりにも獣人の国の兵士ということでしたので……」

「だが、奴隷にすることはあるのだろう?」

「奴隷にする事はあっても殺すようなことはしません。何の利もないじゃないですか」

「なるほど……」


 たしかにな……。

 だが、そうなると獣人を殺そうとしたマシューという男は、完全に独断かもしくは兵士としての特権か、それか……獣人を差別しているという感情で殺そうとしたのか……もしくは……、何か事情を知っている?


 そこまで考えて俺は頭を振る。

 考えすぎだ。


 ――だが、もし俺の考えが正しいのなら何かしらの原因があると考えることもできる。


「ファウスト」

「は、はい!?」

「俺に出会ったことは秘密にしておいてくれ。今、魔王軍が街に攻撃を仕掛けてきている可能性がある」

「――では、兵士の方々に知らせた方が!?」

「いや、相手の油断を誘いたい」

「――ですが!?」

「俺はSランク冒険者だ。何か問題が起きる前に片付けて見せる。俺を信じてくれ」


 ――スキル『話術LV1』を習得しました。


 ファウストを説得していると、視界内に半透明なプレートが開くと共にスキル習得のログが流れた。





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