第293話 王墓ダンジョン(8)
「褒めても何も出ないからな」
そうエミリアに言葉を返しつつ、倒したケルベロスの死体をアイテムボックスに入れて先に進むと、大きな広間に出る。
広間には、5つの太い柱。
そして、太い柱に囲まれている空間の地面には五芒陣が描かれていた。
「これは……絵具か?」
手で五芒陣に触れてみると、最初は赤く見えたから血で描かれたと思ったが、どうやら俺の勘違いのようで、絵具のようであった。
「絵具ですか?」
「エミリアは、絵具を知らないのか?」
「はい。それにしても、どうして王墓に五芒陣があるのでしょうか?」
エミリアは足元――、石畳に描かれている五芒陣を見て不思議そうな表情をしている。
「さあな……」
俺は知らないと答える。
それと同時に思考する。
俺の記憶によると、絵具の歴史は古い。
少なくとも中世と呼ばれている時期で10世紀には使われていたはずだ。
問題は、それをエミリアが知らないという事。
「カズマは、絵具を知っているのですか?」
「ああ」
「それも大国アルドノアで得た知識なのですか?」
「そうなるな」
実際のところは、地球でよく使われていたからだが。
「しかし……祭壇のようなモノは見当たらないな……」
「そんな!」
唐突に聞こえてくる悲痛とも問える声。
それはエミリアが発していたモノだった。
視線をエミリアへと向ければ魔法陣の中心部分で座り込み一点を見つめている姿が視界に入った。
「どうかしたのか?」
「祭壇が……、祭壇が消えています」
「祭壇が消えてる?」
エミリアが、指さした場所。
そこには直径5メートルほどの大きな穴が存在していた。
その穴は、五芒陣の中心部にある。
「まさか……」
俺は穴の中を覗き込むが、穴の底を見通すことができない。
「どうしましょう? カズマ」
「帰るか?」
「それは出来ません。先祖に報告をすると、王家の紋章に光が灯ることになっていて、何もせず帰還したら、国民から何を言われるか……」
「それは、それで問題だな。それなら魔法で光るようにしてみるか?」
「カズマ……」
「冗談だ。しかし、困ったものだな……。どうするか……」
さすがに祭壇があったであろう場所に穴が開いていたことは俺も想定外だ。
そんなことは、アルドガルド・オンラインの時もなかったし。
あと考えられるとしたら……。
「地下にいくか」
「地下ですか? ここに地下があるのですか?」
「まぁ、とりあえず行ってみるか」
「カズマ、私は、これ以上に深い場所を見たことがないのですが……」
「それなら、今日が初めてってことだな」
俺は、エミリアと共に記憶を頼りに4階層を移動する。
「俺の記憶が正しければ……」
しばらく壁沿いの石畳の上を歩いていると、一部、音が変わる場所を踏む。
「ここか……」
片膝をつき、唯一、歩いていた時に音が変わった石畳みに手を伸ばす。
すると、エミリアが背後から俺の手元を覗き込んでくる。
「カズマ? 何か、あったのですか?」
「ああ。じつは、ここにな――」
俺は重さ1トンほどの石畳をステータスに任せて持ち上げてから横にズラす。
すると、石畳があった下からは、4階から更に下へと続く階段が出現する。
「これって隠し階段ですか? こんなのがあるなんてワーフランド王国でも聞いたことがないです」
「だろうな」
何せ、ワールド・オブ・ダンジョンでも4階層から5階層への階段は執拗に隠されていたからな。
まぁ、3日もせずにユーザーにより見つけられたが……。
「すごいです。人間族は、本当に何でも隠しているのですね」
「ああ。本当に困った連中だよな」
この世界がゲーム世界だということを伝えるのは問題だと思い、滅亡した大国アルドノアが全部悪いということにしておく。
「じゃ、階段を下りるか。エミリア、足元に気をつけろよ?」
「分かりました」
4階の階段を下りていく。
5階に到着すると、周りは静まり返っているだけでなく、通路に階段が繋がっているので、階段から降りると真正面には真っ直ぐに続く通路しか視界に映らない。
「向こう側が見えないですね。この通路をまっすぐ歩くのですか?」
「ああ。この道を真っ直ぐに行くと迷宮廻廊に入る」
「迷宮廻廊ですか?」
「かなり入り組んでいて、先が見えない通路だからモンスターと突然、遭遇する事が多いんだよな」
「まるで、カズマは、ここに来たことがあるような物言いをしますよね」
「そうか? 気のせいだろ」
エミリアと会話をしながら通路を真っ直ぐに歩き、もうすぐ突き当りという場所で、俺は右手を広げてエミリアに足を止めるようにジェスチャーする。
「カズマ?」
「ここからは、かなり危険だから俺が先行する。だから、後ろを見張っていてくれ」
エミリアがゴクリと唾を飲み込む。
ちなみにアルドガルド・オンラインをプレイしていた時は装備やレベルが充実していたので、モンスターが居ようといまいと突っ込んでいき、まとめて範囲魔法で吹き飛ばして進んでいたが、今はゲームではない。
そんな危険なことはエミリアと一緒にいるのだから出来ない。
「さて、いくか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます