第268話 リーン王国 第三者Side
カズマからの通信を受け取った城塞都市デリアの冒険者ギルドマスターであるラムドは通信が切れると同時に、通信宝珠を再度、起動させる。
すると、しばらくして「はい。こちら王都リンガイアの冒険者ギルドです」と、通信宝珠から声が聞こえてくるのを確認し、
「こちら城塞都市デリアの冒険者ギルドマスター、ラムドだ。ケイネスに繋げてくれ」
「分かりました。少々、お待ちください」
冒険者ギルドの女性受付の姿が映ったあと、しばらく王都リンガイアの冒険者ギルド建物内の映像だけが水晶球に映り――、しばらくすると映像が切り替わる。
「珍しいな。ラムドから通信してくるとは……。城塞都市の方で何か問題でもあったのか?」
王都リンガイア冒険者ギルドマスターのケイネスが疲れた表情を見せつつ、そうラムドに語り掛ける。
「ああ。前回、カズマが王宮に招致された以来か?」
「そうだな。――で、何があった?」
何かを察したのかケイネスが眉間に皺を寄せてラムドに話しかける。
「じつは、カズマの居場所だが」
「今は獣人国ワーフランドに居るんだろう?」
「流石に情報は降りていたか」
「当たり前だ。シルフィエット様は、ご立腹だ。特に門番をしていた兵士や王都の冒険者ギルドに対してな。何せ、異世界から召喚し魔王に寝返り大国アルドノアを崩壊させた最恐の勇者であった悪魔3人を一人で討伐したんだからな。国としては、それだけの戦力をみすみす逃したのだから、心中穏やかではないのは分かるだろう?」
「それは、分かるが、アレは何とかできる玉じゃないぞ?」
ラムドは溜息交じりに答える。
実際、目の前で――、総督府でカズマが戦っていた姿を見ていた男としては、カズマという冒険者の力は、普通ではないと感じとっていたのだ。
それは、彼自身、優秀な冒険者という意味もあったが、それだけでなく常識外の――、規格外の力を有していると肌で――、直感で、彼は理解していた。
だからこそ、ラムドはカズマや、その一行に対して便宜を図っていた。
それは図らずもいい方向に現在は向いていたが。
「分かっている。――で、その……なんだ? カズマの居場所の件で、連絡をしてきたわけではないよな?」
「当たり前だ」
「つまり、何か問題が起きたと――、そういうことか?」
ケイネスは心底、困ったような表情をみせる。
「ああ。どうやら獣人国ワーフランドで、力を見せる儀式に参加することになったようだ。それで立ち合いを俺に依頼してきた」
「なんだ? そりゃ――。Sランク冒険者であり魔王軍幹部や、元・勇者を屠り、さらには四大属性龍のうち二柱を打ち負かした冒険者に喧嘩を売ったってことか?」
「ああ。しかも、王家が関わっているようだ」
「王家? ワーフランドの?」
「ああ。詳細は知らんが、どうする?」
「どうするも何も、あのカズマという男が立ち会いを依頼してきたという事は、戦うことは確定だろう? しかも王家が関わっているという事は、かなりの戦力を向こうが出してくるのではないのか?」
「ああ。その辺はカズマに確認したが、どうやらワーフランド王国の国境警備兵を抜かした全軍と一人で戦うらしい」
「おいおい。まじか?」
「まじだ」
「――で、お前は、それに対してOKを出したと?」
「もちろんだ。カズマは、人間族の英雄であり勇者であり最強のS級冒険者だからな。他国が、Sランク冒険者であるカズマの実力を知りたいというのは、舐められている証拠だ。そして冒険者ギルドは組織運営上、舐められる訳にはいかない。舐められたらクエストの依頼を受ける際、達成する際、どちらも顧客に舐められることになるからな」
「まったく――、面倒なことになったな。――で、ここからは推測になるが、王都の冒険者ギルドに連絡をしてきたって事は、王女に話を通して欲しいという事だよな?」
「ああ。何とかなるか?」
「その辺は大丈夫だ。カズマからの情報だと言えば、あの王女も嫌だとは言わないだろうよ。それにワーフランド王国のほぼ全軍とカズマが戦うとなるなら、カズマの本当の実力とワーフランド王国の国力も分かるからな」
ケイネスの言葉に、ラムドは苦笑いする。
「――では、ケイネス、頼んだ」
「分かった。――で、ラムドはどうするんだ?」
「これから飛竜で獣人国まで移動する。力を見せる儀式は2週間後だから何とか間に合うはずだ」
「そうか。では、こちらも早めに移動しておいた方がいいな」
そこで通信が切れる。
ラムドからの通信を切ったケイネスはギルドマスターの部屋から出たあと、急ぎ足でギルドの馬で王城へと向かう。
「そこの者!」
城下町と、王城を繋ぐ跳ね橋を馬で通り抜けたところで門番に足止めされたケイネスは馬から降りる。
「王都リンガイア冒険者ギルドマスターのケイネスだ。シルフィエット様に、カズマについて伝える情報がある」
「カズマだと!? あの勇者の!? 待っていろ」
慌てて6人いる門番の中で、一人が慌てた様子で城の中へと入っていく。
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