第267話 面倒な問題に巻き込まれそうだぜ!

「――し、しょんな……」


 絶望の色を瞳の奥に宿した隊長の首を掴み持ち上げて空中へと投げる。

 すると冒険者や侯爵家の兵士たちの間から、


「何キロあると思って!?」

「あの細身で2メートル近い巨漢を空中に放り投げるなんて!?」

「た、隊長!」


 次々と、驚愕の声が聞こえてくる中で、数秒間、空中に舞った隊長の身体に向けて拳の連打を打ち込む


「カズマ! 百裂拳! フォタタタタッタタタタッタタアタ」


 最後の一撃が、隊長とやらの股間に命中する。

 グシャリという嫌な感触が拳から伝わってくると共に、意識が吹き飛んだ隊長の身体が床の上に落ちる。

 ガシャンッ! と、言う音と共に。


「――さて、まだやるか?」


 俺は残った兵士たちの方を見ながら、侯爵家の兵士たちを睨みつける。

 兵士たちは、ジリジリと俺から距離をとっていき脱皮の如く冒険者ギルドの建物から我先にと逃げていくが!


「逃がすか! 攻撃魔法LV1! サンダー」


 建物から出て、大通りを逃げていく兵士たちの頭上に雷の魔法をぶち込む。

 次々と倒れていく兵士たち。

 そして僅か数秒で兵士たちは全滅した。


「よし、終わったな」


 アイテムボックスから縄を取り出し、瀕死状態の兵士たちを縛っていく。

 そして意識を失った兵士たちを冒険者ギルドの中に連行したあと、隊長や壁をブチ抜いて半殺し状態にした兵士も紐で縛る。


「LV7の回復魔法エリアヒール!」


 全員を怪我を治療したあと、俺は全員を引き摺り冒険者ギルドの建物を出たあと、城の御堀に獣人たちを投げ捨てる。

 尚、鎧とか盾などの金属製品は全部アイテムボックスの中に収納済みなので、全員、裸である。

 まぁ、獣人だから毛でふさふさしているから問題ないだろう。

 徴収した金品や金属については俺への迷惑料みたいなモノだ。


「さて、帰るか」


 俺は城の御堀に侯爵家の兵士を捨てたあと、俺の行動を目のあたりにして顔を真っ青にしている門番を無視して城内に足を踏み入れた。


 城の中を歩くこと10分ほど。

 エミリア達が滞在している部屋前に到着して見れば、獣人族の女騎士が5人立っていた。

 

「カズマ殿。無事に帰ってきてくださり何よりです」

「まるで俺が何かに巻き込まれたような素振りで話を振ってくるな……」

「貴方は、今、この国で最も有名な人間ですから」

「まぁ、たしかに――、そこは否定しないな」


 アイテムボックスから、エンブレムを取り出しクレアに渡す。


「持っていても良かったのに」

「まぁ、ずっと借りておくってのもあれだからな」


 実際、顔パス状態になっているから、必要ないだろうし。

 何せ、俺はワーフランドで一番有名な人間らしいからな。

 ドアを開けて中に入れば、寝間着姿のエミリアと、イドルとリオンの姿が目に飛び込んでくる。

 寝間着と言ってもスケスケのランジェリーではなく、普通の健全な寝間着だ。


「ただいま」

「おかえりなさい、カズマ。どうでしたか?」

「一応、城塞都市デリアのギルドマスターが立ち会いをしてくれるって事で話がついた」

「よかったです。断られる可能性も考えていましたから」


 ベッドで横になっていたエミリアは、立ち上がりつつ、そう返してくる。


「ああ。とりあえず、ここの冒険者ギルドマスターには断られたな」

「ですよね……。お母様が目の敵にしているのに――、国のトップが嫌っている人に、国が運営母体の冒険者ギルドが逆らえるはずがないですものね」

「ああ。だが、他の冒険者ギルドと連絡がついたから何とかなったな。その辺は、ラグドリアンに感謝してもいいと思っている」


 ベッドから立ちあがったエミリアを抱きしめてキスをしながら、彼女と共にベッドに座る。


「そうですか。通信も拒否されると思いましたけど、そこまでは酷くはなかったのですね」

「まあ、そしたら、その時はその時だな」

「そうなりますよね」

「そういえば、エミリア」

「はい」

「デメントリ侯爵家の兵士が俺に接触しようとしてきたみたいなんだが、何か心当たりとかあるか? 俺は、獣人国のルールとかマナーを一切知らないし、宮廷闘争についても分からにから、皆目見当がつかないんだが……」

「デメントリですか? 侯爵家の?」

「らしいな」


 エミリアが、少し考え込んでから口を開く。


「たしか、デメントリは侯爵家で、代々、軍務大臣を務めあげてきた王家への忠誠が高い貴族だったはずです。ただ、現当主であるジルベルトに代替わりしてからは、良い噂を聞いたことがありませんけど……」

「そうなのか?」

「はい。人間族の奴隷の売買をしているとか、森の民であるエルフと確執が生じているとか、あくまでも噂話に過ぎませんが、そういう噂を耳にしたことがあります」

「なるほどな……」


 ――噂か……。

 煙の立たないところに何とやらという諺があるが、キナ臭くはあるな。

 だが、それだけだと俺に対して兵士を差し向けてきた理由には説明がつかない。

 話だけでも聞いておくべきだったか?

 まぁ、すでに侯爵家の兵士をボコボコにして城の堀に捨てたから今更感満載なわけだが……。

 ――さて、どうしたものか。




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