第266話 侯爵家の私兵 VS カズマ(2)

「人間族か! まったく! 人間族というのは――、本当に差別意識のある連中だ!」


 吐き捨てるように、俺に言葉を叩きつけてくる侯爵家の兵士を指揮していると思われる40代過ぎの男。


「まぁ、まだ成人仕立ての餓鬼だ! 社会の仕組みを教えてやるのも大人の務めか! 殺せ!」

「――ですが、人間族は、さすがに……」

「ふんっ! 侯爵家の力で、この場の冒険者の口封じをする。口裏さえ合わせれば、死体が一つ、二つ増えようと隠せるだろうが。いいから! 殺れ! 命令だ!」


 一人の獣人族の兵士が、指揮官に意見をしたが、それは聞き入れられないようだ。

 そして指揮をしていた男の命令と同時に獣人族の兵士たちが一斉に俺に向かってくる。

 その様子を冷静に見極めながら――、


「抜刀した。そして、この俺に攻撃を仕掛けて来るということ。さらに俺を殺せと命じられた上で明確な殺気を伴って攻撃を行うという愚行をするという事は、殺されても恨むなよ?」


 振り下ろされてくるブロードソードの刃を手刀で受ける。


「――なっ!? 剣の刃を素手で受け止める――だと!?」


 俺にブロードソードを振り下ろした兵士が驚愕の眼差しを向けてくるのが見えたが、俺はスルーし振り上げた手刀――、相手の振り下ろした剣の刃を受け止めていた手刀に更に力を入れて頭上へと振り上げる。


 ――バキッ!


 俺の手刀が、兵士の振り下ろしたブロードソードを刃の部分から破砕する。

 鈍い音と共に、砕け粉砕され――、両断されたブロードソードの切っ先は空中をクルクルと回転すると床に刺さるかどうかと言ったところで、俺は一歩前へ進み出る。

 そしてブロードソードを受け止めていた左手とは逆手。

 右手で掌底を作り兵士の鎧部分を打ち抜く。


 ――ガシァヤアアッ


 兵士の着ていた鎧が鈍い音と共に粉々に砕け散り周辺に破片として散らばり、兵士の身体は床と並行に吹き飛ぶと冒険者ギルドのレンガ造りの壁をブチ抜く。


「――さて……」


 いきなりの事に静まり返る冒険者ギルドのリビング。

 そして、ブロードソードを抜刀した状態で固まる侯爵家の兵士たち。


「かかってこいよ!」


 俺の言葉に兵士たちが互いに顔を見せ合う。


「た、隊長――」

「――う、煩い! まぐれだ! まぐれに決まっている!」

「まぐれじゃないんだがな」


 相手の実力も見抜けない程の凡夫なのか。

 まぁ、どちらでもいいが……。


「――う、うるさい! ――お、おまえたち! 何をしている! 目の前の人間を殺せ!」


 俺の言葉を否定してくる侯爵家の兵士の隊長とやらは、顔を真っ赤にして、命令をしているが、どの兵士も動かない。


「くそがっ! どうして! 誰も動かん! 俺様の命令が聞こえないのか! それでも、侯爵家の兵士か!」


 痺れを切らしたのか隊長とやらも抜刀し、俺へと突っ込んでくるが――、その際の振動で、立っていた侯爵家の兵士たちが、一斉に! 全員が! 床の上に倒れ込む。


「――なっっ!?」


 いきなりのこと。

 唐突に、自身の指揮していた兵士たちが、全員! 床の上に力なく倒れたことに気が付き、ブロードソードを振り上げたまま驚愕の表情で突っ込んでくる隊長。

 そんな隊長に向けて、俺は右ストレートを放つ。

 もちろん、振り下ろされてくる刀身に向けて!

 俺の拳は、ブロードソードの刀身を粉々に砕くばかりか、その持ち主である隊長の顔をも的確に捉えて吹き飛ばす。

 ブロードソードだった――、粉々に砕けた刀身の残りだけが――、柄の部分だけが残っている握り手を手にしたまま床の上を転がっていく隊長。

 彼は、冒険者ギルドの壁に盛大な音を立てて衝突すると血反吐をぶちまけて――、


「……あ、ありえない……。たかが……人間族が……人間族の分際で……、これほどの力を……こんな餓鬼が……」


 途切れ途切れと言った様子で、額から血を流しながら俺を睨みつけてくる。


「黙れ、小僧」


 元は、日本で40歳中盤まで社会人をしていて、さらに異世界に召喚されて若返って冒険者として数年暮らしてきたのだ。

 年齢的には、俺の方が上だ。


「小僧だと……? この俺様を……。これでも、騎士爵家出身の……」

「そんなことは知らんな。俺は忠告したはずだ。殺すつもりで攻撃をしてきた場合、殺されても文句は言うなとな」


 四肢に力が入らないのだろう。

 隊長とやらは、両足を伸ばし、両手も床に投げだしたままだ。

 そんな隊長の足を――、膝の部分を俺は思いっきり踏みつける。

 

「ギャアアアアアアア」


 ステータスに裏付けされた俺の踏みつけが、隊長とやらの膝をグシャ! と、言う音と共に踏みつぶした。


「――さて、ここで問題だ」


 俺は、隊長が被っていた兜を外す。

 そして涙と鼻水で酷いことになっている顔を真正面から見据える。


「部下の責任は、誰の責任か分かるか?」

「あががが……」

「そうか。分からないか」


 もう片方の足――、その膝も踏みつぶす。

 続けて聞こえてくる隊長とやらの絶叫の声。


「――さて、もう一度、確認するが」


 俺は、笑みを浮かべる。


「――た、たしゅけ……」

「駄目だ」


 こういうやつは、中途半端に許すと、あとで逆恨みしてくることは確定している。

 だから、徹底的に痛めつけて教育する必要がある。

 まぁ、召喚された勇者のように肉塊にはしないから安心してほしい。

 あとで回復魔法で直してやるからな?



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