第265話 侯爵家の私兵 VS カズマ(1)

「それなら、何も言わん。ただ協力することも出来ないことは年頭に置いておいてくれ」

「分かっているさ」


 ソファーから立ち上がり、部屋から出た。

 冒険者ギルドの通路を一人歩き、受付のあるラウンジに出たところで、何やら騒ぎが起きている事に気がつく。


「なんだよ! 貴族の私兵が何の用だ!」

「この声は、俺に絡んできた……」


 視線を、人だかりの方へと向ければ、やはりというか狼族のガルアスとお仲間一行が、金の掛かってそうな統一された鎧を着込んだ兵士と睨み合っている姿があった。


「どういうことだ?」


 俺は近くの受付嬢に話しかける。


「――え! あ! はい! たしか、貴方は、Sランク冒険者の――」

「口上はいい。それよりも、今は、どんな状況なんだ? 俺は、いまラウンジに戻ってきたばかりで、どうして貴族の私兵と冒険者がゴタゴタになっているのか分からないんだが?」


 冒険者ギルドの受付嬢が、「そうだったのですか!」と、頷くと口を開く。


「じつは、最初は、彼らはSランク冒険者であるエイジ様を尋ねてきました」

「彼ら?」

「デメントリ侯爵家の私兵です」

「デメントリ?」


 聞いたことがないな。

 ゲーム時代でも、そんな家名は聞いたことがない。


「はい。聞いたことはありませんか?」

「ないな」

「デメントリ侯爵家は、軍務大臣であるジルベルト軍務卿が当主を務めているのです」

「ほう」


 今一、話が読めないな。

 そもそも、俺がワーフランド王国軍と戦うのは決まっていることで、その事で軍務期が俺に関わってくることは普通に考えてありえないと思うんだが。

 それなら、俺と戦う為に少しでも軍備を整えた方が建設的だと思うが。


「――で、どうして冒険者と侯爵家の私兵がゴタゴタしているんだ?」

「じつは、冒険者パーティであるグレートウルフが、先日、クエストを受注して仕事をしたのですが、その際に、獲物を侯爵家の私兵が奪っていったのです」

「奪っていった?」

「はい。ただ、その際には後程、金銭を払うという事で約束をしたと、ガルアスさんから聞いていましたけど侯爵家は知らないと一点張りで――、さすがにワーフランド王国でも有数の貴族が相手でしたから冒険者ギルドも強くは言えず――」

「それで、冒険者が倒した獲物を奪われたという言い方をしたわけか?」

「はい」

「そいつは禍根の残る問題だな」

「はい。ですから、冒険者ギルドにデメントリ侯爵家の私兵が顔を出したので、ガルアスさんが、文句を言った形になっています」

「ふむ……。それにしては、他の冒険者たちまでもガルアスに加担しているように見えるが?」

「じつは、最近、当主がジルベルト侯爵に代わってから、冒険者たちとゴタゴタが起きていまして……」

「それは他の冒険者を含めてか?」

「はい……」

「そして、その際に冒険者ギルドは国や貴族から出資で動いているから一般人の冒険者は泣き寝入りしている現状だと?」

「そうなります」

「そいつは冒険者ギルドが悪いんじゃないのか?」

「分かっています。ですが、冒険者ギルドは、王家や貴族の出資で成り立っていまして……」

「最後のセーフティネットワークはどうなっているのか……」


 他の国と比べてどうかとかは分からないが、市民の最後の稼ぎのセーフティネットワークである稼ぎを――、金銭面や依頼達成を邪魔にして謝罪もしないとか、この国の貴族は大丈夫か?

 心配になってきたんだが……。


「仰る通りです。あ!」


 受付嬢が、声をあげる。

 その理由は、本当に分かりやすいモノだ。

 何と、侯爵家の私兵が腰に帯剣していたブロードソードを抜いたからだ。


「おいおい。冒険者ギルド内で、真剣を抜くとか常識が無いにも程があるだろ。冒険者ギルドは止めなくていいのか?」


 俺は、事務机に座っているお偉いさんっぽい獣人や受付嬢に視線を向けるが誰もが目を逸らす。

 どうやら、本当に上級貴族とゴタゴタは起こしたくはないようだ。

 思っていたよりも国もそうだが、冒険者ギルドも腐っているようだな。


「しかし、それにしても冒険者たちは鞘から剣を抜かないのか?」

「そんなことすれば貴族と事を構えたという理由で斬られても文句は言えません!」


 そう受付嬢が説明してくる。


「なるほどな……」


 俺は溜息をつきつつ、受付カウンターから外に出る。


「おい! 小物ども!」


 俺はリビングで一触即発の連中全てに丸ごと声をかける。

 途端に、一斉に俺へと視線が向けられてくる。


「冒険者ギルド内での抜刀は禁止されているって知らないのか? そこの雑魚兵士ども」


 長年虐めを受けてきた俺としては、上の立場に胡坐をかいて弱い立場に居るモノを一方的に弾圧するような様は見ていて気分がいいモノではない。


「雑魚兵……ども……だと……!?」


 一斉に、侯爵家の私兵たちが色めき立ち抜刀したまま俺に向き直ってくる。


「なんだ? あんな挑発を貴族の私兵にして大丈夫なのか?」

「おいおい。あいつ死んだわ」

「あれって……さっきの……」


 次々と、俺が冒険者ギルドに入ってきた時に居た冒険者たちが各々、発言してくる。


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