第269話 リーン王国 謁見の間の対話 第三者Side

 すぐに戻ってきた兵士。

 その後ろには、もう一人の影があった。


「近衛騎士だと?」


 思わず呟くケイネスを他所に、「君は、このまま職務を遂行してくれたまえ」と、ケイネスが話しかけた門番に指示を出した近衛騎士はケイネスの目の前に立つと、


「近衛騎士のイザークと言う。王女殿下が、すぐにでもお会いしたいとのことだ。申し訳ないが付いてきてくれ」

「(随分と物々しいな)」


 ケイネスは、少し離れた場所に居る近衛騎士団を視界に捉えて、心の中で嘆息していた。

 それと同時に、カズマという存在はリーン王国にとって、ずいぶんと大きなモノになっているであろうことも、嫌々ながら理解し始めていた。

 そして、それはすぐに現実のモノとなった。

 ケイネスが案内された場所は、謁見の間であったからだ。

 謁見の間には、100人を超える貴族や騎士が並んでおり、本来なら国王が座っているであろう王座には、20代にも満たないリーン王国の王女であるシルフィエット・ド・リーンが座っていた。

 彼は、王女殿下の前で跪き頭を垂れる。


「王女殿下。彼は、リンガイアの冒険者ギルドマスターのケイネスと言います」


 ケイネスを謁見の間まで案内してきたイザークが、そう王女殿下に説明をする。

 シルフィエットは、小さく「そう」と、凛とした美しい声を漏らす。

 それは静まり返った謁見の間で恐ろしいまで響く。

 謁見の間は、大聖堂の集会所もかくや否やと言うほど広く、それでも、その美声は誰の耳にも届いた。


「ケイネスとやら。先の魔王軍侵攻のおりには、その活躍大儀であった。冒険者ギルドに所属している冒険者の奮迅、話に聞いておる」

「勿体ないお言葉です」


 片膝をつき頭を垂れながら答えるケイネスの心にあったのは、驚きであった。

 冒険者ギルドの運営費、運営は基本的に国に繋がりのある貴族か王族が行っているからだ。

 ただ、実質の業務は国、王族、貴族が民間に委託している。

 委託された各冒険者ギルドを統治しているのが、冒険者ギルドマスターとなっており、冒険者ギルドマスターを頂点として、その下に事務員が存在している。

 そして、国や貴族というのは民間人を消耗品の駒のように基本的に考えており、国を守るためには死ぬことは当然と考えていた。

 だからこそ、ケイネスは、謁見の場――、貴族が集まっている正式な会見の場で、冒険者たちの奮闘を認めるような発言をしたシルフィエット王女殿下の心意を測りかねていた。


「我々、冒険者ギルドに所属している冒険者は王国の剣であり盾だと、誰もが自負しております。その為、王国側からの許可と認可を受けて活動しているのですから」

「そうですか」


 細かな細工が成された黒い扇を広げた王女殿下は、扇からは口元が見えない状態で――、笑みを浮かべるが、頭を垂れているケイネスからは王女殿下の表情を読み取ることは出来なかった。


「ケイネス。カズマという男を知っていますね?」

「はい」

「私は、今さっき、冒険者ギルドに所属している冒険者は王国の剣であり盾だと聞きました。そう言いましたわね?」

「はい」

「カズマという男。彼は、どうして王国から出たのかしら?」


 王女殿下の言葉にザワッと謁見の間がざわつく。

 それと同時に、王女殿下は――、


「ケイネス。顔を上げていいわ」

「失礼します」


 王女殿下に許可をされた? 命令をされたケイネスは顔を上げる。

 すると扇子に口元が隠された王女殿下の顔が、ケイネスには見えたが、その王女殿下の瞳を見てケイネスは頭を上げたことに後悔した。

 

「どう思うかしら? ケイネス。冒険者ギルドマスターである貴方にとって――、王都から黙って消えた冒険者カズマを、貴方はどう思うのかしら?」

「それは……。カズマという男はSランク冒険者ですので……」


 何と答えていいのか? と、背筋に嫌な汗をかきながらケイネスは言葉を口にするが、それが正解からは程遠いという事は、彼は理解していた。

 

「私は、王国の民であるカズマの真意が知りたいのよね? 裏切りの三勇者を倒し、魔王軍の幹部すら屠り、四大属性龍のうち2匹を配下に置いている彼のことをね……、ねえ? ケイネス」

「はい」

「カズマは、何を考えてリーン王国から出奔したのかしら?」

「それは分かりません。あの者は、歴代最強のSランク冒険者です。ただ一つ言えることは――、北に向かっているということです」

「北に?」

「はい」


 頷きながらケイネスは頭をフル回転させる。

 今のカズマは、冒険者や民間人の中では英雄であり勇者という扱いであった。

 ただ、貴族の中では王女殿下からの婚約を断った不届きものであり、とくにカズマは民間人であった。

民間人が王族からの求婚を断ることは、貴族の面子からしたら許されるモノではなかった。

 貴族は何よりも家名と面子を大事にするから。

 そして、それは王族である王女殿下も同じであった。

だが、彼女は理解していた。

 カズマと戦って勝つことは不可能であることを。

 何よりも大国アルドノアが偽勇者と魔王軍により壊滅したことで、人間族の国々のパワーバランスが崩れているであろうことも。

そんな中でカズマという最大の武力は、他国への牽制が出来る最大の戦力であった。

それらを短時間で考えたケイネスは口を開く。


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