第243話 エミリアの故郷(4)
詰め所は、門を通り抜けた傍にあり、煉瓦というよりも切り出した石を積み重ねた作りになっている。
獣人国ワーフランドに入ってから、視界に表示されている気候は20度前後と言ったところで、普通なら肌寒いくらいの温度であった。
おそらく大陸最北端に位置する魔王領に近いという事もあるのだろう。
ダリアの部下から、椅子に座る事を進められた俺は、木で作られた簡素な椅子に腰をかける。
「どうぞ」
そう短く野太い声で、詰め所の兵士が差し出してきたのは琥珀色の飲み物。
「これは?」
「蜂蜜酒になります。温めてありますので、人間族には、この国は寒いとよく聞きますので」
「ああ。すまないな」
俺は、木製のカップを受け取り一口すする。
適度に甘みはあり、飲みやすい。
なんというか、蜂蜜レモンみたいな味。
「カズマ殿は、ダルア様と既知の仲だと、先ほど伺いましたが?」
「――ん? ああ。そうだな……。ダルアとは戦友だな」
「戦友ですか……。それは、姫様の捜索の一環でと言う事ですか?」
「そこは企業秘密だな。さすがに、国の機密に関して互いに安易に知り得るのは不味いだろう?」
「そうですね」
狼顔のウェアウルフの男は、肩を竦めると、俺から距離を取る。
俺はカップに口をつけたあとは、肘を木製のテーブルにつけたあと、視界内に表示されているMAPを確認する。
視線によりMAPの位置を誘導していき、北をチェックしていく。
北方の大陸に通じる山脈。
その山脈を超えた位置に存在する北海道くらいの広さの土地が――。
「魔王領か……」
思わず独り言が零れ落ちる。
魔王を倒すつもりは無かったが、これからのことを考えると魔王は何とかした方がいいだろう。
とくに勇者組を勧誘するような頭のおかしい奴だからな。
討伐することも辞さない。
むしろ、獣人や亜人のことを考えると倒した方がいいような気がするが……。
問題は共通の相手が居なくなった時に、獣人と人間の関係性がどうなるのかが問題になってくる。
なにしろアルドガルドオンラインの時代には、亜人や獣人というのは人間と完全に敵対していたし、エルフやダークエルフですら人間とは距離を取っていた。
その辺を考えると魔王を倒した場合に、共通の敵が居なくなるのは……。
「難しいよな……」
蜂蜜酒を飲みながら、一人愚痴ったところで、詰め所の扉が開く。
「待たせた」
そう言って詰め所に入ってきたのは、ダリアで――、獣人の男は手に羊皮紙を携えていた。
「いや、どうだ? 確認は取れたか?」
「うむ」
手にした羊皮紙を広げながら、椅子に座るダリア。
体の大きさが俺よりも一回り大きいことから、椅子から音が軋んで聞こえてくる。
「王都リンガイアの冒険者ギルドマスターのケイネスに確認は取れた。Sランク冒険者カズマの身分は、あちら側で保証してくれた」
「そうか。なら良かった」
「だが、カズマ。君が、何のために、この国に来たのかまでは教えてはくれなかった。リーン王国の王宮からの書簡を君が携えているとしか教えてはくれなかった」
「そいつは良かった」
当てずっぽうで適当に言った内容だったが、どうやら冒険者ギルド側は配慮して理由付けをしてくれたようだ。
ケイネスに感謝だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます