第217話 エピローグ(4)

 言い合いをしているリオンとイドルを従えて、侍女にエミリアと共に謁見の間まで案内される。

 しばらくしてから名前を呼ばれ重厚な扉が開いていく。

 

「あ、木材なのか」


 システム上、確認したところ重厚と言っても木材の扉。

 まぁ、そりゃ開閉の際に石や金属の扉だったら大変だからな。


「カズマ様」

「分かっている。エミリアいくぞ」

「はい」

「イドルとリオンも――」

「マスター、分かっておりますのだ」

「主、この水龍と我を同列に語るのは――」

「はぁ……。とりあえず、お前達の正体は隠すからな」


 謁見の間に入り、身嗜みが整っている人間達が、俺達の歩む絨毯の両端に規則的に並んでいるのを見ながら、二人に注意する。

 もちろん、並んでいる人間達には気づかれないように。


「エミリア」

「はい」

「今回の王都を守った功績は、昨日の夜の打ち合わせどおりだからな」

「分かっています」


 最後の確認をしたところで、俺達は女王の目の前で膝をつく。


「女王陛下。彼らが、Sランク冒険者のカズマと、その一向でございます」

「さようか」


 感情を殺した口調で、俺達の説明をした髭を蓄えた60過ぎの頭髪の薄くなった男に、言葉を返すのが聞こえてくる。


「Sランク冒険者カズマ、顔を上げることを許す」


 その言葉に、イドルとリオンから殺気が溢れ出すが、俺はすかさず二人に視線を送り阻止する。

 そして顔を上げて女王の顔を見る。


「――さて、この度、我がリーン王国を救った英雄にして勇者カズマ」


 俺は勇者ではないし英雄でもないのだが……。

 たしかにスキルには『英雄』とか『勇者』とか存在しているが、俺は勇者として扱われることを望んではいない。

 そもそも、どうやら女王陛下は、俺の主導でリーン王国は救われたと宣言したいように思える。

 まぁ、人間至上主義の異世界ガルドランドでは、獣人に国を救われたという事実は認めたくないだろうな。

 だが、俺としては―――。


「今回の救国の英雄そして勇者としての行動と実績を示した貴殿には、何かしらの褒美を与えたいと思っている」

「褒美でございますか?」

「そうなる。貴殿の働きは冒険者ギルドや、各領地の領主から話しは聞いている。そこで英雄カズマとカズマが率いるパーティメンバーには、その労に報いるための褒美を渡したいと思っている」


 ――褒美か。

 エミリアの考えだと、リーン王国の王宮としては、俺をリーン王国の貴族にする可能性が高いと示唆していたが……。


「カズマ。貴殿には公爵家籍を用意したいと考えている」


 女王の言葉に、謁見の間はざわつくこともなく、誰もが俺達を見ている。

 つまり、公爵籍を用意するという話は、すでに謁見の間に集まった人間には話を通しているということか。


「陛下」

「まぁ、待て。褒美が公爵家の設立だけというのは足りないというのは分かっている」


 俺は苦情を言うとでも思ったのか、女王が俺の言葉を遮ってくる。


「貴殿には、公爵籍を用意するが――」


 そう言いながら一呼吸置いたあと女王陛下が口を開く。


「私、リーン王国の女王であるシルフィエット・ド・リーンは貴殿との婚約を考えている」

「それはいいです」


 考える間もなく断っていた。

 そして、俺が断ったことに謁見の間がざわつく。


「それは、どういうことか釈明はあるのであろうな?」

「あ――」


 よくよく考えたら謁見の間で、あまりに適当に――、女王陛下からの下賜を断っていたことに気が付く。





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