第306話 とりあえず魔物ってことにしておけばいいんじゃないのか?

「勝手に牢を利用したからです。本来であるなら、然るべき手順をとって牢に入れなくてはいけないというのに……」

「そっちか……」

「もっと重要なことだと思いましたね! カズマ」

「ああ。魔王軍が攻めてきてるとか、そんな切羽詰まった話かと思ったら全然違ったな」


 ははははっ! と、思わず笑ってしまった。

 少し長くダンジョン攻略をしていたから、テンションが上がってしまっていたから笑いが止まらない。


「二人とも……。牢に拘束をした人物が人間族だということを失念していませんか?」

「ああ。なるほど……。つまり、各国の大使や代表が集まっている中での私人逮捕はマズイと言いたいのか?」

「ええ。ようやく理解して頂けましたか」

「……それは問題ですね」


 エミリアも遅れて事態の深刻さを理解したようで静まる。

 そして、お通夜モードになる執務室内。


「こうしたらどうだ?」


 俺は一つの解決口を見つけるというか考える。


「何か良い案でも?」

「牢屋に入れたのは、人間に化けていた魔族だと言い張ればいい」

「そんな世迷言を信じる人間が――」

「リオンとイドルが居るだろう? さすがに二人なら、嗅ぎ分けられるからという適当な理由ででっち上げて何とかなる!」


 自信満々に俺は言ってのける。

 まぁ、まるで根拠が無いと聞かれれば、根拠はあったりする。

 アルドガルド・オンラインの世界では、魔物に変身できるスクロールなどが存在していた。

 何故、魔物に変身できるシステムが実装されていたのかと言うと、魔物に変身をすればBOSSモンスター以外のモンスターからは敵として認識されずにモンスターと一対一で戦うことが出来たからだ。

 囲まれてタコ殴りにされれば大ダメージを受ける狩場でも、常にタイマン勝負ならば殆どダメージを追う事もなくモンスターを倒せる。

 その恩恵は大きい。

 だから、アルドガルド・オンラインの世界のプレイヤーは、狩場に行くときには基本的に、魔物に変身して狩場に向かい、狩場で常駐していた。


「確かに偉大なる四竜のお二人の意見なら――」

「だろう? ――なら、問題ないな」

「それにしても、カズマは博識なのですね。四竜の特性も理解しているなんて」

「まあな」


 エミリアが俺を褒め称えてくれるが、実際のところはアルドガルド・オンライン攻略通信に書かれていた仕様を丸パクリしただけにすぎない。

 あとは20年以上と言う長い年月のサービス期間中にユーザー同士の中で蓄積されていった膨大な知識の一つだ。

 それが、こんな形で役に立つとは……。


「分かりました。それでは、今、我が国に滞在中の各国の代表には、そのように伝えておきます」

「よろしく頼む」


 とりあえず、これでひと段落だな。


「それと――」

「まだあるのか?」

「結婚は上手くいったのですね。二人の指輪には強力な魔力を感じます」


 そこでようやくエミリアの母親が笑顔を向けてきた。


「ああ。何とかな……」


 しかし、あのダンジョンの作りだとプレイヤー以外は運営のシステム――、結婚システムを利用できないと思うんだが、大丈夫なのだろうか?

 まぁ、俺が心配することではないな。


「これでカズマとの結婚は認めてもらえるのですよね?」

「もちろんよ。先祖が許可をしたのだから、反対をしたら、それこそ問題になるもの」

「よかった! カズマ! 本当に、良かったですね!」

「そうだな」


 エミリアも、実の母親とは先ほどまでいがみ合っていたような素振りを見せていたが、実際は、そうでもないということか。

 まぁ、仲が悪い母娘よりも仲がいい方がいいからな。


「――じゃ、俺は先に休ませてもらっていいか?」

「ええ、かまわないわ。当面の懸念も払拭されましたから」

「なら良かった。エミリアは、どうする?」

「私は、少しお母様と話をしてから戻ります」

「そうか」


 まあ、問題は改善したし、エミリアも母親と和解? したようだし、それなら話したいことはあるかと思い、部屋へと戻った。

 部屋に戻ったあと、俺はベッドで横になり目を瞑った。




 ――翌朝、やけに騒がしい音と共に目を覚ます。


「何だ? 随分と騒々しいな」


 部屋から出て見れば、城の廊下を慌てて移動する侍女やメイドや騎士の姿が目に入る。


「何か事件でも起きたのか?」


 俺は部屋の前に立っている近衛女騎士に話しかける。


「貴殿と王女殿下との結婚式の準備に決まっているであろう?」

「俺とエミリアの?」

「女王陛下より通達があり明後日に結婚式を執り行うと通達があったのだ。すでに、通達は御触れとして、ワーフランド王国全域に向けられて発令されている」


 随分と急だな……。

 ああ、そうか……。

 今は、他国の大使や王族に有力な貴族が滞在していたな。

 それらに、俺とエミリアとの結婚を見せることで、俺の配下である四大属性竜が国を守るということを印象付けようという腹積もりなのか。

 昨日は何も言っていなかったが……、流石は国のトップを張るだけあって腹芸はあるということだな。


「カズマ。どうかしましたか?」


 外の近衛女騎士と話をしているとエミリアが話しかけてきた。


 




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