第307話 夜なべして作ったウェディングドレスだが?

「俺と、お前が明後日に結婚式を上げることになっているみたいだ」


 そうエミリアに話すと、彼女は「あっ!」と、言う表情をしたあと、俺の腕に抱き着いてくると俺を部屋の中へと引きこんだあと扉を片手で閉める。

 その様子から、どうやらエミリアは母親と何かを決めたらしいというのが伺いしれた。


「エミリア。お前、俺に何か報告し忘れてないか?」

「えっと……はい。ごめんなさい、カズマ」

「まぁ、別にいいが……」


 エミリアのお腹には俺の子供がいるんだし、結婚は早めの方がいいだろう。

 お腹が目立ってきたら、着られるウェディングドレスも限られてくるからな。


「――それで、結婚式だが、ドレスの新調は間に合うのか?」

「はい。新調というか手直しをするという方向で決まりました」

「エミリアは、それでいいのか?」


 女性は結婚式――、特にウェディングドレスに拘ることが多いと何かの本で読んだ事があるが……。


「もちろんです。王家には代々、結婚式の際に着るドレスというのが決まっていますから。それに毎年、新調していましたから」

「そ、そうか……。俺と出会ってから成長してなくて良かったというか何と言うか……」

「あっ! 少し、胸は大きくなっていました」


 そういえば女性は胸を揉まれると大きくなるという与太話を聞いたことがあるな。

 それは別にいいとして。


「それにしても結婚式なら、俺もエミリアのウェディングドレスは作っていたんだが……」

「――え?」

「だから、エミリアのウェディングドレスを作っていた。ただ旅が長かったから、結婚式を挙げる余裕がなかったからな……、お蔵入りになっていた」


 一応、念のために俺のスキルを総動員してエミリアのウェディングドレスを、現代日本のウェディングドレスを参考に作っておいたんだが……、必要ないなら仕方ないな。

 何せ、王家代々のウェディングドレスがあるのなら、それに従っておいた方がいいだろうし。


「カズマ」

「どした?」

「カズマが用意してくれたウェディングドレスって、どういうモノか見てみたいです!」

「お、おう……、でもいいのか?」

「いいのかとは? だって、カズマが用意してくれたってことは異世界の衣服を参考に作ったということですよね? 私、今までカズマが作ってくれた装備を着ていますから! どんな洋服なのか! 私! 気になります!」

「そ、そうか……」


 随分と食い気味にくるな……。

 俺はアイテムボックスから、城塞都市ハイネから夜なべをして王都近くでようやく完成したウェディングドレスをアイテムボックスから取り出す。

 青を基調としたAラインのドレスで、肩口を隠すようにフリルを追加している。

 さらにドレスの表面には、濃い青色で細かな刺繍を入れてあるり、腰部分――、後ろには大き目のリボンをあしらっているし、所々には大き目のタリスマンを縫い付けてある。


「これって……」

「とりあえず、作ってみた」


 アルドガルド・オンラインの世界では、ジューンブライドイベントというのが一年に一回開催されていて、男女キャラに関係なく作成したウェディングドレスをお披露目するというイベントがあった。

 そして1位を取ったプレイヤーには、新作のパソコンが渡されていた。

 なので、アルドガルド・オンラインのプレイヤーは殆ど全員がウェディングドレスを作るジューンブライドイベントに参加していたのだ。

 もちろん俺も例外ではない。

 20年以上もの歳月かけて俺が作ったウェディングドレスは、装飾が過多にならぬように、それでいて抑えるツボはきちんと押さえていて、尚且つ! 狩りでも使えるように洗練されている。


「着てみてもいいですか?」

「ああ。あと、これも――」


 続けて、俺は花嫁が付ける装飾品を取り出す。

 それらも錬金術のスキルで作り出したモノだ。

 作成に一月かかったモノで、かなりの性能を有している。


 


名称

エミリアのウェディングドレス


 性能

 最大HP+400%

 最大MP+400%

 物理防御力+200

移動回避力+200

 魔法防御力+200

  

 特殊性能


 毒無効化

 魔法攻撃を20%の確立で反射

 ステータス異常を無効化

 オートヒール機能実装

 自動的に衣服を修復


 


 俺が長い間、試行錯誤して作ったウェディングドレスなだけあって、その性能は破格の一言につきる。

 アルドガルド・オンラインの世界でも、黎明期を過ぎて黄昏期においても十分通用するレベルの装備――じゃなくてウェディングドレスだ。

 しばらくしてウェディングドレスを着たエミリアが姿を見せる。


「ど、どうですか? カズマ」

「……」


 思わず、俺は言葉に詰まる。

 実際、シュミレーションとしてエミリアが俺の作ったウェディングドレスを着た場面は、確認したが、それを遥かに超えるレベルで似合っていた。


「き、綺麗だ……」


 ありきたりと言えば、ありきたりという言葉しか口から出てこない。

 そうか……。

 これが完璧ってやつか……。


「本当ですか?」

「ああ」


 コクコクと俺は頷く。

 そして巨大な姿見をアイテムボックスから取り出してエミリアの前に置く。


「うわー、すごいです! こんな大きい鏡を……え? こ、これって……私ですか? すごいです! このドレスすごいです!」



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