第142話 砂上の戦闘(1)

「カズマ」

「ん? どうかしたのか?」


 幌馬車を引いているのはリオンと言うこともあり、俺とエミリアは毛布を敷いた幌馬車の中で、横たわっていた。

 エミリアも、リオンがアルドガルド・オンラインの最強のモンスターである四大竜の一匹である水龍アクアドラゴンだと認識してからは、過保護に接する事は止めたようだ。


「リオンちゃんに、そのまま幌馬車を引かせていても大丈夫なのですか?」

「まぁ、リオンの場合は問題ないだろう」

「ですけど、一人で引いているのですよね?」

「そうだな。まぁ、あとで労いの言葉をかける事はしようと思っている」

「……そうですね」

「それにしても、エミリア」

「はい?」

「リオンの正体を知って、平気なのか?」

「はい。もう私達は、ずっとと言えば語弊がありますけど、それでも一緒に旅をしてきた仲間ですから。その間に、リオンちゃんの私に対する対応というか、そういうのは見てきましたし、彼女は私のことはカズマの伴侶として考えているようですので……」

「つまり、エミリアとしては、リオンに関しては問題ないと思っているってことでいいのか?」

「はい」


 コクリと頷いてくるエミリア。

 彼女が納得して、気持ちを消化しているのなら、それでいい。

 俺としては、旅をする上でギスギスするような関係は疲れるから止めて欲しかったところだからな。

 一人、思いに耽っていると横になっていたエミリアは上半身を起こし座ると幌馬車後方の天幕を軽く捲る。

 天幕の外には、遠ざかっていく城塞都市デリアの光景が目に入ってきた。


「それにしても、すごい速さですね。あっと言う間にデリアの姿が小さくなっていきます」

「そうだな……。体感的には、馬の倍以上の速さで移動しているんだろうな」

「その割にはまったく揺れないですね」

「そういえばそうだな」


 エミリアの指摘で、俺は少し気になり木で作られた車輪の方へと視線を向ける。

 すると、車輪は濡れている道の上を滑るように走っていた。


「ん? どういうことだ?」


 外は、一切! 雨が降っていないというのに濡れている道の部分には岩どころか小石すら落ちていない。

 ひたすら平坦に、まっすぐに続く道が続いているばかり。

 それは、道路という概念が存在しない異世界においては異端とも言えるべきものであり、俺はリオンがハーネスを握っている前方へと向かう。

 後ろからは、エミリアも一緒についてくる。


 御者席へと通じる天幕を開けると、まず目に飛び込んできたのは美幼女姿のリオン。

 そして、リオンが向かう前方――、北の方角には無数の大岩などが存在していて、それらの岩が巨大な水流により破壊され押し流されていき、あとには整地された平坦な水がしみ込んだ道だけが作られていく光景であった。

 

「なるほど……」

「そういうことですか」


 つまり、リオンは馬車を振動させないようにと、幌馬車が走る道を整地していたと。


「すごいですね」

「そうだな」


 エミリアの感嘆の声に俺も頷く。

 それにしてもリオンも結構、多芸だよな。






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