第141話 城塞都市デリアⅡ(12)
城塞都市デリアの城門とも呼べる場所。
外の街道へと通じる城塞門の前の広場には、多くの住民が集まっている姿が目に入ってくる。
「マスター、大勢の人だかりが進行上に立っているがどうすればいい?」
「とりあえず速度を落せ」
荷馬車を引いていたリオンが、困惑した様子で俺に指示を仰いできた。
別段、早く荷馬車は走っている訳ではない。
ただ問題が起きたら面倒だと思い、遅く走るようにリオンに命令したが――。
「カズマ。あれは、一体何があったのでしょうか?」
エミリアも、俺とリオンの会話を荷馬車で聞いていたのか顔を出すと視線の先――、俺達が向かう道の先に大勢の住民が集まっているのを見て不安げな表情を俺に見せてきた。
「そうだな……」
まぁ、俺も思い当たる節が幾つかない訳ではない。
総督府を吹き飛ばしたり、宿屋周辺で大規模戦闘が起きたりと、今回のデリアでの戦闘は俺達が来たから起きたと言っても過言ではない。
――そう。傍から見ればそう取られても仕方ない。俺達に一切! 非が! 無いとしても!
一瞬、城門を強行突破しようとも考えたが、城門前に見知った顔が見えたことで俺は、その考えを止めた。
「ソフィア、このお祭り騒ぎはなんだ?」
俺は、城門前に辿り着いたところで、大勢の民衆の最前列の前に立っていたソフィアへ語りかける。
「はい! これは、新たなる英雄と、デリアを救った巫女……」
そこでソフィアは一瞬、改めるように咳を一つ。
「魔王軍幹部を次々と撃破していく勇者と大勢の市民を救った聖女を送り出す為に、民が集まりました。それだけです」
「勇者というのは……」
「カズマさんの事です」
「――と、言うことは……必然的に……」
「聖女は、エミリアさんと言うことになります」
「なるほどな……」
俺は思わず肩を竦める。
つまり、街の人間に詳細を説明するのが面倒という部分もあるが、魔王という絶対的な恐怖に街が壊滅一歩手前まで追い詰められた事に対するアンチテーゼとして、その恐怖に対する対抗策として勇者と聖女というのが必要だったと。
本当の勇者と聖女に限らず、そういう肩書が。
「あとで高くつくからな」
「分かっています。その点に関しては冒険者ギルドから後で報酬をお渡しする予定ですので」
まぁ、城塞都市デリアの復興の件もあるからな。
国民の士気が大事だということか。
その辺の出費は致し方ないと。
「それでは見送りご苦労と言えばいいのか?」
「まぁ、そうですね。ただ軽く演説して頂ければ、此方の方としても助かります。何せ、魔王を倒す為に召喚した勇者が魔王に寝返ったことで各国は混乱していますので。それに何より寝返った勇者を倒した、この世界の勇者と聖女という事なのですから」
「そういうことか」
つまり異世界から召喚された勇者ではなく、この世界に元から住んでいた住民の中から魔王を倒す力を持つ人間が出てきた。
その事の方が、この世界の住人にとっては重要なのだろう。
何せ、魔王や配下の幹部には、この世界の人間の攻撃は効かなかったのだから。
その意義は果てしなく大きい。
「はい。お願いできますか?」
「費用込みだろうな?」
「もちろんです」
俺とソフィアはコソコソと話をしながら商談をまとめる。
そのあと、俺は城塞都市デリアの住民に向けて、幹部を3人倒したこと。
そしてリーン王国の王都へ向かうことを宣言した。
ただし、魔王と戦うとは一言も言ってはいない。
何せ、俺の仕事は王都の偵察だからな!
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