第297話 王墓ダンジョン(12)

「カズマ、何か落ちていますよ!」

「――ん? あれは……」


 エミリアが見つけた床に転がっている玉を手にする。

 それは、直径15センチほどの黒水晶。


「綺麗ですね。――でも、何か妙な力を感じるというか……」

「これはネクロマンサーの宝珠だな」

「ネクロマンサーの宝珠ですか?」


 姿を消しているエミリアの言葉に俺は頷く。

 ネクロマンサーの宝珠。

 それは、三賢者がワールド・オブ・ダンジョン内で徘徊している理由。

アルドガルド・オンラインの世界では、『完成した宝珠』により伝説の神獣ルアカーゼを召喚することが出来るようになる。

ただし、完成した宝珠を手に入れることは不可能に近く、20年以上サービスを続けているアルドガルド・オンラインでも、素材を全て入手したプレイヤーは存在していなかった。


「ああ。この宝珠と、稀にしか手に入れることができない素材アイテムを合成することで、神獣を召喚することが出来る唯一の宝珠を手に入れることができるんだが……」

「難しいということですか?」

「難しいというか不可能に近いってところだな」


 エミリアに答えながらも、俺はアイテムボックスにネクロマンサーの宝珠を入れる。


「カズマが、不可能と断じるという事は、無理ということですね」

「どうだろうな」


 この世界は、アルドガルド・オンラインに似てはいるが似てない部分もある。

 そう考えると素材を手に入れることも、もしかしたら可能かも知れない。


「――とりあえず最下層に向かうか」


 道中、天井と床に穴が開いている場所を見つけては、大きな通路を歩きながらモンスターを纏めて倒しつつ、階段を目指す。

 範囲攻撃を行ってくるケルベロスや、巨漢オーク、グールにゾンビ。

 それらを蹴散らしながら、1時間ほどで地下7階へと通じる階段に到着した後、階段を下りていく。

 そして階段を下り切ったところで、俺は足を止める。


「まじか……。これは、厄介だな……」

「どうかしましたか? カズマ」

「一回、6階に戻るぞ」

「え?」

「いいから、とりあえず」

 

 こちらにヘイトが向かう前に、さっさと7階から6階へと戻る。

 6階の――、7階へと降りる階段を注視しつつ、10分ほど経過したところで俺は溜息をつく。


「いきなり、どうかしたのですか? カズマ」

「デスナイトの強化版がいた」

「強化版ですか?」

「ああ。ファイナル・デス・ナイトって言うんだが……」


 それにしても、ゲーム内のボスネームと言っても、ファイナル・デス・ナイトとか、本当に酷いネーミングセンスだよな。

 まぁ、そのファイナル・デス・ナイトのレベルというか強さは、ゲーム内でも屈指と言っていいレベルだ。

 年々、強化されていくプレイヤーを相手にするために運営が力を入れて投入したボスモンスターで、範囲魔法や攻撃速度は、5階層で戦ったデスナイトよりも遥かに強く速い。

 

「すごい名前ですね」

「だよな……」

「――で、カズマが、何も説明せずに撤退したという事は、それだけ強いモンスターということですか?」

「そうなるな」

「今のカズマなら勝てますか?」

「まぁ、勝てなくもないが、ダンジョン内だから強力な魔法が使えないのがな……」

「使えれば勝てるのですか?」

「――いや、別に頑張れば何とかなると思う」

「そうなのですか……。カズマ、私も一緒に――」

「駄目だ。ファイナル・デス・ナイトだけは、俺以外だと範囲攻撃でも即死するから」

「カズマに貰った装備があってもですか?」

「ああ。基本スペックが違うからな」


 そう、この世界の人間と、ゲームプレイヤーのようなレベルとステータスの上がり方をしている俺では、スペックがまったく違う。

 正直、ファイナル・デス・ナイト一匹で、裏切った3人の勇者を瞬殺できるだろう。

 そのくらいファイナル・デス・ナイトの力はインフレしまくっている。


「私、足手まといにしかなっていないですね……」

「気にするな。そもそも妻を守るのは夫の役目だからな。それに何よりもお腹の子に何かあったら、それこそ大問題だからな。とりあえずエミリアは、ここで待機しておいてくれ」

「分かりました……。――で、でも! カズマ! 必ず帰ってきてくださいね!」

「分かっているさ」


 エミリアと別れたあと、俺は手にしていた剣――、デスナイト・フレア・ブレードをアイテムボックスに入れる。

 そして、階段で足を止めたあと、チェーンソードをアイテムボックスから取り出す。

チェーンソードを手にしたあと、『クリエイターLV10』を使い、チェーンソードの攻撃力を引き上げると共に、『錬金術師LV10』を使い武器の刀身金属をアイアンからミスリルへと変換する。

さらに『付与術師LV10』のスキルを使い、雷魔法LV4のサンダーボルトの魔法をチェーンソードに付与。


「とりあえず、こんなところか……」


 創作したアイテムを確認する。


武器名 ミスリル・チェーン・ソード

 材質 ミスリル(銀)

 付与属性魔法 サンダーボルド(発動確立30%)


 この武器なら、問題なくファイナル・デス・ナイトのダメージリダレクション効果を無効化するだけでなく、雷魔法によりネームドボスの防御力を貫通できる。


「――さて、討伐にいくとするか」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る