第326話 富士山麓事件(3)
「――た、田中さん。どうかしたのかい?」
自宅が更地になっていた事に驚いた俺は背後から掛けられた声に反射的に反応してしまい振り向く。
そこには隣近所のおばさんが立っていた。
たしか名前は……、宮根さんだったはず。
「宮根さん?」
40歳後半の、中太り、身長は160センチ前後の! 紫色に髪の毛を染めたパンチパーマ姿のおばさんは頷く。
「いきなり引っ越したと思ったら、どうかしたのかい?」
「え? 引っ越し?」
あまりにもあまりな問いかけに俺は一瞬、固まったあと、そう返事をするのが精一杯だった。
「そうよ。何の挨拶もなく、いきなり引っ越してから業者が来て新築だったのに取り壊していったから驚いたのよね……。それで一馬君は、いまはどこに引っ越したの?」
不味いな……。
少し会話をしていて、まず第一に思ったことはそれだった。
この世界に戻ってきたと思ったら、いきなり意味の分からない病院のような場所で目を覚ましたと思ったら、今のような更に意味不明な事態に直面。
つまり、自身の身の上を第三者に晒すという行為は、現時点ではデメリットしかない。
敵かどうかは分からないが、警察に検問をさせるほどの力を持つ組織が相手だと仮定すると、俺の動きを知られるのは非常に厄介。
近所の知らない仲ではないとは言え、他人に俺がこの場所に居た事実を知られたのは……。
「……ちょっと来なさい」
おばさんが、俺の腕を掴むとグイグイと引っ張っていく。
果たして連れて行かれたのは隣の家。
玄関に連れ込まれたあと、おばちゃんは、玄関外を見渡すとドアを閉めてからチェーンをかけて鍵を閉めた。
「宮根さん、どうかしたんですか? いきなり」
「まずは靴を脱ぎな」
「あ、はい……」
命令口調に、俺は思わず従って靴を脱ぎ土間から上がる。
「今日は暑いからね。何か飲むかい? 麦茶しかないけど」
「いえ、別に」
「子供が遠慮しちゃだめだよ」
断る選択肢を用意してないのに、どうして聞いたのか? と、心の中で突っ込みつつ、連れて行かれたのはリビング。
10畳ほどの広さのリビングの中央には、椅子4脚と、テーブルが備え付けられており、「椅子に座って待ってな」と、言う宮根さんの言葉に俺は素直に従い椅子に座った。
もちろんノートパソコンの入ったカバンはフローリングの床の上に置く。
しばらくして、宮根さんが麦茶の入ったコップを二つ手にして近づいてくると、俺の目の前のテーブルの上に置くと、テーブルを挟んだ向かい側に座り、溜息をついた。
「さてと――」
宮根さんは、コップを手にして自身で注いだ麦茶を一口飲んだあと、俺の方へと視線を向けてくると、「疎開先で何かあったのかい?」と、唐突に尋ねてきた。
思わず、「疎開先?」と、言う聞いた事がない言葉に俺は反応をしそうになったが、押し殺すことに成功したのか、それを了承として受け取ったのか宮根さんが口を開く。
「やっぱり何かあったんだね」
「まぁ――」
ここはとりあえず話を合わせておこう。
「――で、これからどうするんだい? 高校生の身分なんだ。できることも限られるだろう?」
「まぁ、それはそうなんですが……」
思わず面接されているような気分になってしまい社会人としての応答が全面に出そうになるが、それを必死に抑える。
「――なら、ここでしばらく住むにもありかもね」
「いえ。それは迷惑に――」
「だから子供が、そんな細かいことを気にするもんじゃないよ。たしかに、ここはウィルス危険地域なのは代わりはないけれど……」
――? 一体、何の話をしているんだ? ウィルス? どういうことだ?
だが、とりあえず、ここは断っておいた方が得策だろう。
「いえ。宮根さんのご家族にも――」と、続けて迷惑をかけてしまいますからと、続けて言葉を発しようとしたところで、宮根さんは表情を曇らせると、「夫も息子も世界中に蔓延した武漢ウィルスで死んじまったよ」と、重々しく口を開いた。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。 なつめ猫 @Natsumeneko
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