第171話 砂上の戦闘(30)

 理由は分からない。

 だが――、何か問題が起きたのは確かだ。

 一気に町の外へと出た俺は、砂漠の中を走る。


「――あっ、カズマど……」


 何やら、一瞬――、ダルアと獣人達の姿が見えた気がするが気のせいだろう。

 それよりも、いまはエミリアのことが気がかりだ。

 エミリアは、リオンから離れて行っていることから、まずはリオンと合流した方がいいな。


「――ん?」


 MAPを出しながら砂の上を走っていると、俺の方へリオンが近づいてくる。

 さすがリオンというべきか、すぐに、その姿が視界に入ってきた。


「リオン」

「マスター! 申し訳ありませぬ」


 合流と同時に頭を下げてくるリオン。


「一体何があった?」

「ハッ。じつは地竜が奥方様を連れていきまして……」

「それを黙って見ていたということか?」

「奥方様が妾を庇ってくれたのです。砂漠では、妾は力を満足に振るうことができぬ事を理解されたようで……」

「リオン。俺は、お前にエミリアを守るように命令をしたはずだな?」

「はい……。その点に関しては言い訳のしようもなく――」

「もういい」


 俺の言葉に俯くリオン。

 

「まずはエミリアを助けることが最重要だ」

「マスターは、奥方様がどちらに行かれたのかは――」

「すでに確認済みだ。だが――、地竜といえばウェイザーだったな? どうして四竜の一匹が、こんな場所に来ているんだ? そもそも、ウェイザーはグランドキャニオンの大洞窟にいたはずだが……」

「グランドキャニオンの大洞窟ですか?」

「――そうか……」


 アルドガルド・オンラインの世界では、地竜ウェイザーは大陸の南方のグランドキャニオンの大洞窟に存在していたが、この時代だと異なるらしい。


「いや、何でもない」


 俺は言葉を返しながら、視界内に表示されているシステムMAPを見る。


「ウェイザーは、奥方様と何かしらの契約を行っていたと」

「契約?」

「ハッ」

「人間と四竜の一匹が契約を交わすことなんてありえるのか?」


 少なくとも俺がゲームをしていた時には、そのようなイベントを見た事がない。

 なら……、そうなると俺が知らない事があるのか?

 だが、そうなると……。


 そこで俺は頭を振る。

 自問自答をしている暇はない。


「ですがマスター。ウェイザーは、竜族の契約により奥方様を贄にすると……」

「贄に?」


 どういう意味だ?

 言葉をそのまま解釈するのなら生贄という意味だが、そのような話はやはり聞いた事がない。

 

「どちらにしてもエミリアを追う事が先決だな。リオン、一緒についてこい。竜族の契約ならばお前が居た方がいい」

「ハッ、承知致しました」




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