第170話 砂上の戦闘(29)

 つまり、魔王領と接していて魔王軍からの攻撃を受けていないから、迫害が苛烈しているということか?

 だが――。


「まぁ、驚くのも仕方ない。獣人の国を迂回していて進軍に時間が掛かると言っても連合国側は、その事実を無視している。それでも、魔王軍に殺された人々の感情は、攻撃を受けていない連中へ向けられる」

「それは、魔王軍と相対している連合軍に参加していなくてもか?」

「そうなる」

「……君は、獣人に対する負の感情が無いのは、我々と敵対した事から理解できたが……。まさか、この世界では常識と言っていい程の事を知らなかったとは」


 その言葉に俺は頭を振る。


「たとえ、知っていたとしても俺は……」

「別に君を責めている訳ではない。だが――、団長が獣人を殺したいほど憎んでいる理由は知っておいてほしい」

「理解はしたが、納得はしない」

「それでいい」


 そう、ベルガルが呟いたとこで――、


 ――ゴンゴン


 廊下へ続く扉が強く叩かれる。


「副団長!」

「どうした?」


 俺に部屋の角へ移動するようにベルガルは手で指示を出してくる。

 仕方なく、俺は扉から離れ、丁度、死角になる場所へ移動した。

 そこでベルガルが少しだけ扉を開ける。


「大変です! 魔物の大軍が、この砂漠の町エイラハブへ向かってきています」

「こんな砂漠の町にか?」

「はい! その数は数万。魔王軍四天王の一人が率いている事も確認できました」

「ばかな……。大陸中に侵略の魔の手を広げている魔王軍が、どうして、こんな小さな町を……。それで魔王軍四天王は誰がきている?」

「元・勇者のコウジ・タカヤマです」

「勇者か……。すぐに撤退の準備をするように通達を――」

「それが……団長は迎え撃つと……」

「こちらの数は1000にも満たないのだぞ? 数万の魔王軍が町に到着してからでは逃げられなくなることは――」

「ですから、団長は自分達が戦っている間に歓楽街で働いていた女や商人を逃がすように副団長へ伝えろと」

「なるほど……。分かった。それでは、用意が出来たらすぐに行く。お前は、商業ギルドと歓楽街へ町からの撤退の話を通達してくれ」

「分かりました」


 扉が閉められた所で、ベルガルが溜息をつき俺の方を見てくる。


「すまないな。もう少し、話をしたかったが――」

「いや。いまの話を聞いていただけで切羽詰まった状況というのは理解できた」

「カズマ殿も、すぐに逃げた方がよい。いくら魔王軍と戦っているSランク冒険者と言えど、元・勇者の魔王軍四天王と数万の魔物を相手にしたら勝ち目はない」


 ベルガルの言葉に俺はどう反応するか一瞬迷う。

 恐らく、高山浩二が、このような砂漠の町を襲う理由は一つだけ。

 皆月茜の復讐といったところだろう。

 そう考えれば、辻褄が合わなくもないが……。


「分かった」


 俺は、ベルガルからの言葉を快諾する。

 理由は、数万の魔物が、どのように動くのか予測がつかないからというのも理由の一つとしてあったが、エミリア達に魔物が向かう危険性を考えたからだ。


「それでは失礼する」

「カズマ殿も御武運を」

「ああ、互いにな」


 俺は老兵に礼をいい部屋を後にし、建物に入ってきた手順で、外へと出る。

 そしてエミリアの場所を確認する為にMAPを起動させるが――。


「どういうことだ? どうして、リオンとエミリアの距離が離れている?」


 視界に表示されたMAPには、エミリアの光点とリオンの光点が、互いにかけ離れた場所に存在していた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る