第205話 王都リンガイア(4)第三者視点

「――ですが、それでは王国が……」

「それでもだ……。すでに大国アルドノアは勇者に滅ぼされているのだ。新たに勇者を召喚する術は失われているのだぞ?」

「ギルドマスター、お言葉ですが、異世界人を召喚して勇者として戦わせた結果、彼らは裏切り魔王軍の尖兵へと成り果てました。古代より異世界人は世界を救うとありますが、そのような伝承を鵜呑みにするのは間違っていると思います」


 ソフィアは、勇者を召喚した事に対して、間違っていると語る。

 それにラウルフとソフィアの話を聞いていたシルフィエットは、「ソフィア。それは女神様を軽んじる行為と取られることを分かっているのですか?」と、問いかけた。

 

「それは……」

「今は、国の重鎮しかいなかったから良かったものを、教会関係者に聞かれていたら問題になっていたでしょう」

「申し訳ありません。ですが……」

「分かっております。ただ、そのような軽はずみな言動は慎みなさい」

「はい」

「――それでは通信を切るが、他に何か伝え忘れなどはあるか?」

「いえ。とくには……、王都は大丈夫なのですか?」

「かなり厳しい状況だな。高ランクの冒険者を招集して王都に来たのは良いが、魔に堕ちた三勇者に半数が殺されたからな」

「それは……」


 水晶球に映りこむソフィアの表情が青くなる。

 彼女は、自身の判断でカズマを王都に派遣したことに対して、ようやく、その危険性を理解したのだったが……。


「まぁ三勇者のうち最強が王都に張り付いていた事もあるが、二人の勇者と魔王四天王を二人倒したというのだから、おそらくだが、いまの冒険者ギルドでは上位の実力を持っていると信じている」

「はい。それは大丈夫かと」

「だが、それで慢心し城壁を突破されれば意味がない。ソフィアは、他の村や町の冒険者ギルドと連携し王都が陥落した際に、国から逃げられるよう手配をしておけ」

「――っ。わかりました」

「では、あとは任せたぞ」


 ラウルフは、一瞬だけ笑顔を見せて魔力を使った通信を解除する。

 水晶球は、もはや何も映していない。


「シルフィエット様。膨大な魔力の供給を頂き……何と感謝すれば……」

「よいのです、ラウルフ。もはや、王都リンガイアが陥落するのは時間の問題です。ならば民を避難させることに全力を尽くした方がいいでしょう」

「はっ」


 返事を返すラウルフを見たあと、シルフィエットは部屋から出るために扉に手をかける。


「そういえば、ラウルフ」

「何でしょうか? 女王様」

「ふふっ、まだ戴冠の儀式も行っていないのに変ね」

「他の王族の方が軒並み戦死されております。ですので――」

「ええ。分かっているわ。でも……本当に勇者を倒した冒険者が居ると思う? 王都に兵を集結させようと、中継都市のエイラハブを利用しようとしていたのに、通信途絶してから、数か月が経つと言うのに」

「それは何とも……」


 魔王軍の戦力は圧倒的。

 それゆえ、一人の冒険者が港町ケインを救い、ハイネの町を救い、城塞都市デリアを救うばかりか次々と魔王軍を打ち倒していくという夢物語を、誰も部屋の者達は本気で信じてはいなかった。


 何せ、Sランク冒険者とAランク冒険者合わせて200人近くが、たった一人の勇者に殺されたからだ。

 それほど戦力に隔絶的なまでの差がある。


「そうよね……」


 ラウルフも、女王も、ソフィアが王都の兵士や民衆を鼓舞する為に、色好い戦果を話したと確証を持って考えていた。


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