第323話 技術革新

「たけえ……」


 まず第一声がそれだった。

 ノートパソコンは売っていた。

 売っていたが……。


「HDDが2GBとかマジかよ……」


 自分が異世界に転生する前に使っていたデスクトップPCは8TBのHDDと1TBのSSDを積んでいたというのに……。


「これ、本当にネットに繋がるのか?」


 どう見ても、繋がるようには見えないんだが……。

 店員を呼び止めて確認することにする。

 すると、どうやらネット回線には繋がるようだが、それなりの機種がいいとのこと。

 

「お客様のご要望ですと、このへんになりますね」


 店員が提案してきたのは55万円のノートPC。

 CPUは266MHZのHDDは4GB、メモリに至っては144MBというハイエンドノートPCだ。

 まぁ、30年近く前のPCだと、このくらいの性能になるのだろう。

 それにしても……、30年後のPCを見ているから一言いいたくなる。

 技術の進歩はすごいなと。

 それにしても、先ほどから店員がやけに周辺をチラチラ見ているな。


「何か?」

「いえ。おひとり様ですか?」

「ええ。まあ――」

「それでは、こちらがパンフレットになりますので、ご両親とご相談ください」


 そう言って店員が立ち去ろうとしてくる。

 まぁ、55万円もする価格のノートPCを見た目高校生の人間が買うとは誰も思わないだろう。


 店員が俺から去ろうとしたので――、「待ってください」と、声をかける。


「まだ分からない点でも?」

「――いえ。これネットに繋がるんですよね?」

「はい。一応専用のケーブルを使い携帯電話と接続をすればインターネットには繋がりますが、料金が――」

「ああ。なるほど……」


 30年前と言えばADSLすら殆ど普及していなかった時代だ。

 そうした中でネットに繋げるとしたら基本はダイヤルアップかISDNくらいしか接続方法がない

 つまり定額プランがないので料金が高い。

 そんなわけで――、そこを店員は心配したのかも知れない。


「大丈夫です。それじゃ専用のケーブルとノートパソコン、この一番高い機種をもらえますか?」

「――え!?」


 俺の言葉にキョトンとした店員は、少し固まったかと思うと――、「この機種は、消費税と本体価格を合わせて、60万円近くなりますが……」と、恐る恐る聞いてくるが、


「問題ないです。現金一括でお願いします」


 まぁ、クレジットカードなんてものは持っていないので、そう返すことしかできない。

 現金一括でノートPCを購入したあとは、簡単に店側でセットアップをしてもらう。

 自分でしてもいいが、この時代のノートPCとネット接続は色々と手間だし、何よりも多少はお金を払ってでも、古のPC操作に慣れている人に任せた方がいいと判断したからだ。


「それでは、こちらは窓95が入っています。ネットにはダイヤルアップ接続で――」


 店員が説明していく。

 大半は知っていることだが、知らないこともある。

 そして再三思うことがある。

 本当に30年の間で技術革新があったと実感した。


 

 

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