第54話 ハイネ城炎上!(1)

 プロポーズを終えて、その翌朝。

 何時も通り、気怠いが心地よい疲れで眠りについていた所、部屋のドアが何度も叩かれた。


「はい」

「お客さん! ハイネ領主の兵士の方が、お客さんを迎えにきてますよ!」

「俺を?」


 どうして、ハイネ領主の兵士が、冒険者ランクD程度の俺を迎えにきているか理解は出来なかったが、とりあえずデートスポットを教えてくれた女将さんに迷惑をかける事はできない。


「今、行きます。そう伝えてもらえますか?」

「あいよ!」


 女将さんがドアの前から離れていく足音が聞こえたあと、俺はすぐにベッドから降りる。


「――ん……、カズマ?」

「ああ、エミリア。ちょっと領主の兵士が迎えに来ているみたいだから、出かけてくる。お前は、もう少し寝ていていいからな」

「うん……、早く帰ってきてね」


 裸のエミリアが俺にキスをせがんできたので、応じたあと服を着てから宿の1階へと向かう。

 すると、丁度、女将が二人の兵士に無断で宿に入るなと言った場面であった。


「すまない。遅くなった。それで、俺の何のようだ?」


 宿の入り口に立っている兵士達へと視線を向けると、二人の兵士は俺の姿を見るや不思議そうな表情を向けてくる。


「お前が、カズマ殿でいいのか?」


 兵士が怪訝そうな様子で聞いてくるので、俺は冒険者ギルドカードを取り出し見せる。


「たしかに、カズマ殿だ……」

「本当か? まだ成人して間もないのでは?」

「冒険者ランクもDランク。セイガル殿が、話したことに嘘はないと思うが……」

「セイガル?」


 先日、城門で貴方に報奨金を渡した方だ。

 俺の脳裏に老兵士の顔は思い浮かぶ。


「ああ、たしかにアリゲータを魔法で殲滅したあとに話したな。名前は聞きそびれていたから失念していた」

「どうやら間違いではないようですね」

「まぁ、間違いかどうかは知らないが、何のようだ?」

「ヘイゼル様が、会いたいとのことだ」

「ヘイゼル?」

「ハイネを治めている領主さまのことだよ」


 俺の疑問に答えたのは、宿屋の女将。


「なるほど……」


 つまり、俺の魔法を宛てにして、領主が会いたいと思って兵士を寄こした訳か。

 図らずしも老兵士が言ったままになったな。


「分かった」


 断る理由もないし、断っても良い事はないだろう。

 それなら相手の話を聞いた上で判断した方が得策だ。


「それではハイネ城まで案内しよう。付いてきてくれ」

 

 一人の兵士が、俺に話しかけるともう一人の兵士はさっさと宿から出ていく。

 それと共に馬の嘶きの声が。

 宿から出ると、宿の入り口には、豪奢な馬車が停まっており、少なくとも俺を歓迎する意図は伝わってきた。




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