第303話 魔王軍幹部サキュバスクィーンの襲撃(1)

「動かないか……」

「カズマ。一度、結婚をご先祖様にお伝えすると、祭壇は反応しないのです」

「そうなのか?」

「はい」

「ふむ……」


 釈然としない思いのまま、俺もモノリスに触れるが、やはり反応がない。


「カズマ?」

「いや――、何でもない。それよりも王墓を出るとしようか」

「はい!」


 俺とエミリアは、ダンジョンの中を歩いて戻る。

 道中、モンスターはゲーム時代のように湧くこともなく殆ど時間も取られることもなくダンジョンから出た。

 ダンジョンから出ると、外は薄暗く、もうすぐ日は沈むであろうことは容易に想像がついた。


「結構、時間がかかったな」

「はい。本当は30分ほどでいつもは結婚を報告出来るらしいのですが……」

「今回は、勝手が違ったってことか」

「どういう訳か、モンスターも出ていましたし」

「そうだな。まぁ、その辺の調査については後日だな」


 そうエミリアに言葉を返したあと、王墓ダンジョン――、ワールド・オブ・ダンジョンを、あとにしようとしたところで――、


「あらら。このダンジョンをクリアできるなんて、貴方っ! 本当に強いのね?」


 唐突に森の中から聞こえる声。

 それから続いて白い麻布のワンピースを着た村娘が姿を見せる。


「どなたですか?」

「エミリア。敵だ!」


 俺は、エミリアに敵襲を告げると同時に、腰から剣を抜く。


「これは、かける声を間違えてしまったようね……」


 見た目はおっとりとした美人で体系もグラビアアイドル並。

 所作も一介の村娘と言った感じではない。

 それが違和感を増長させていた。


「お前は何者だ? ここのダンジョンと関係あるのか?」

「ダンジョン? あなた、プレイヤーでしょう? アルドガルド・オンラインのプレイヤー。違うのかしら?」

「――なっ!」

「ほら、正解っ!」


ニコリと、本当に面白そうに微笑みを向けてくる女は、一歩、俺に近づいてくる。


「待ってください! それ以上! 私の旦那様に近づくようなら容赦はしませんっ!」


 エミリアは俺が渡した長刀を頭上で一回回すと、長刀の矛先を村娘のような恰好をしている女に向けると、気迫と共に忠告をした。

 

「――旦那様?」


 だが、目の前の村娘の恰好した女は、キョトンとした表情をした。

 そして、真顔のまま口を開く。


「……そ、その娘。……え、NPCよね? プレイヤーではないのよね? そんな恰好のアバターとかなかったし……」

「NPC? アバター? 何のことですか!」


 エミリアは剣呑とした表情をし、言葉を紡ぐが――、一瞬だけ村娘は、エミリアを一瞥したかと思うと、俺の方を見てくる。


 「ハハハハハッ。――え? 本当に? 本気で? こんな虫けらと、地球人が婚姻を? しかも旦那様? 正気なの? ねえ? あなた、本当にアルドガルド・オンラインのプレイヤーなの? 信じられないわ!」

「私を無視しないでください!」


 村娘は、エミリアへ一切視線を向けることなく俺だけを注視し語り掛けてくる。

 その様子に、目の前の村娘は、アルドガルド・オンラインのプレイヤーだという事を認識すると同時に、エミリアをNPCと断じた言葉に俺は憤りを感じた。


「何が面白い?」

「――え?」


 俺の言葉に呆ける村娘。

 自分でも驚くほど低い声が出た。

 

「エミリア。俺の後ろに――」

「――で、でも!」

「いいから!」


 俺は、村娘とエミリアの間に割って入るようにして移動するが――、


「へー。大事にしてもらっているんだ。玩具扱いなのかな? かな? ねえ? そうなのかな? いいなー! それ、すごくいいなー! ねえ? 貴方、お名前は?」


 村娘は、表情を上気させながら、楽しそうに――、表情を歪めると、俺に名前を尋ねてくる。


「答える義務はないな」

「ああ。そういうこと? 名前を名乗らせるのなら自分から名乗れ的みたいな? 分かっているわね! さすがアルドガルド・オンラインのプレイヤーだわ。そうね! 私は、明日香・クリスフォードよ?」


 答えるとは一言も言っていないのに村娘の方から名前を明かしてくる。


「それで、貴方の名前は? キャラクター名でもいいわよ?」

「答えるつもりはないな」

「そう。それは、残念ね」

「別に残念でもない。それよりも、答えろ! お前は地球人なのか?」

「ええ。そうよ! 名前で分からないかしら。――で、産まれは日本ね」


 金髪碧眼の19歳くらいの年齢の村娘。

 どう見ても日本人には見えないが――、


「もしかして疑っているのかしら? 本当に用心深いわね!」

「当たり前だろうが。俺の妻を侮辱した言葉だけでも、こっちは切れる寸前だぞ?」


 アイテムボックスから、デスナイト・フレア・ソードを取り出す。


「すごい殺気ね。それに――、それって……。デスナイトを倒したってことかしら? すごいわね。勇者君たちが全員殺されたのも当然と言ったところかしら?」


 さも当然の如く語ってくる明日香・クリスフォードと言う女への警戒心を俺は一段階引き上げながら、


「殺しはしない。お前の目的を教えてもらうまではな!」

「私を殺す? ハハハハハッ。面白い冗談ね。私のレベルは93よ? デスナイトはLV60もあれば倒せるけどね。デスナイトを倒した如きで、あんまり調子に乗らないことよ?」




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