第174話 失意の慟哭(3) エミリアside
お兄様が、国王代理を行うようになってからすぐに市政は傾いた。
理由は、辺境の地であった未開の地から魔物が出現したから。
魔物が出現し、国土が荒らされるようになった。
国境で兵士達が国を守る為に戦い続け、死者や怪我人が続出したことで働き手がいなくなり王宮の財政は傾く。
悪循環だった。
そんなある日、夜遅くに私は自室へ戻る際に、お兄様が2人の護衛をつけて、お母様の部屋へ入っていく姿を見た。
お兄様の表情は、疲れているように見えて何かお母様に頼み事があるの? と、思い……ただ、その表情の険しさから、よくない話だと勘づき、自分の部屋のバルコニーから外壁を伝って、お母様の部屋のバルコニーに向かった。
そして、バルコニーに到着したところで声が聞こえてきた。
「母上、頼みがある」
「そう、アーガス。そんなに状況は良くないのね?」
「はい。北の辺境の地は、魔王国と呼ばれる国が建国され、今まで散発的でした魔物が組織的な攻撃を仕掛けるようになってきました。人間よりも身体的に優れているとは言え、回復魔法を使うモノが少ない以上、これ以上は、経済はおろか国を守ることすら困難です」
「……そうなのね」
「はい。そこで、頼みがあります」
「それは、使役の法よね……」
お母様が呟いた言葉。
それは異世界から齎された陰陽術という魔法とはまったく別の系統の術式で、力のある霊力を有した者にしか扱う事ができない術。
「はい」
「それで何を使役しようと考えているの?」
「地竜ウェイザーを……」
「伝説の四属性を司る四竜の一匹を使役するつもりなのね……。――でも、それは……、難しいわ」
「分かっています。――ですが! このままでは獣人国は滅んでしまうのです! 多くの民を救うために母上の力が必要なのです!」
「――お兄様!」
そこまで話しを聞いて私はバルコニーから、お母様の部屋へ踏み入る。
「エミリア! どうして、ここに!?」
お兄様は、私がお母様の部屋にいた事に驚き声を荒げていた。
「お兄様が、思いつめた表情をしておりましたので……、心配になって……」
「そうか……」
「そうか……では! ありません! お兄様は使役の法が、どれだけ危険なモノなのかご存知なのですか!」
「分かっている!」
「分かっていません! 使役の法は、魔物を操ることが出来ますが、その使役した存在が受けたダメージを引き受けないといけないのですよ! そして、最後には供物として自らの身体を……」
「だが!」
「私も分かっております。今は、国が一大事だと言う事くらいは……。ですが! 使役の法なんて使っていいものでは……」
私だって王族として育てられたから分かる。
お兄様が、最後の手段として『使役の法』を使おうとしているくらいは。
そして――、その供物として自らの家族を差し出そうと考え、葛藤し、苦渋の決断を下さざるを得なかったことくらいは……。
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