第173話 失意の慟哭(2) エミリアside

「エミリア。起きなさい」


 優しい声と共に、私は瞼を開ける。

 まだ眠い……。

 揺らめく灯り――、火の光に私は瞼を擦りながら呟く。


「お母様?」


 眠気とまどろみの中、声のした方へと視線を向けると、暗闇の中には銀色に光り輝く髪を背中で纏めているお母様の姿があった。


「もうすぐご飯よ?」

「うん……」


 私は、眠気と戦いながら、そっと布団を捲って汚れていないのかを確認して――。


「お母様っ!」

「もしかして、今日もやってしまったの?」

「ううん、大丈夫だったの!」


 通算、17回連続という記録を何とか阻止した私は、誇らしげにお母様へ報告する。

 そんな私の頭をお母様の手がやさしく撫でなら「偉いわね」と褒めてくれる。


「それじゃ早く起きましょうか?」

「うん!」


 私は布団から出て立ち上がる。

 そして、床板の上に降り立つ。

 まだ雪が残っている季節と言う事もあり、床はひんやりと冷たい。


「お母様。今日のご飯は何?」

「そうね――」


 顔を上げて、お母様に問いかける。

 お母様は、私を抱き上げると部屋から出て食堂へと向かう。

 食堂に到着すると、すでにお父様やお兄様が食卓についていた。


「おそいぞ。エミリア」

「よいではないか。アーガス」

「ですが父上、エミリアも獣人国の王族としての自覚を――」

「まだ5歳なのだ。お前が5歳の時も、あのような感じであったぞ?」

「それは……」

「お父様、お兄様、おはようございます」

「おはよう。エミリア。今日、夜尿症は大丈夫だったか?」

「うん! 今日は、大丈夫だったの!」

「そうか、そうか」


 お父様は破顔した表情で何度か頷くと、横に座っていたお兄様は深く溜息をつくと私へと視線を向けてきた。


「エミリア。よかったな」

「はい! お兄様!」


 お兄様も満更ではないと言った感じで私に語り掛けてきてくれた。 

 朝は、家族で揃って食事を摂る。

 そして、そのあとはお父様とお母様は仕事に行かれる。

 国王と王妃だからと、家族が揃って食事ができる時間は朝食しかない。

 でも、それは日常のことで、私は何も疑問に思わなかった。

 お父様がいて、お母様がいて、お兄様が次期国王になるために、一生懸命勉学に励む。

 それはいつものことだった。


 それから10年という歳月が過ぎたころ、唐突にお父様が行方不明になった。

 国王が行方不明になるという大事。

 幸い、お兄様が国王代理を担うことになった。




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