第106話 デリア総督府消滅(6)

「ここです」


 セリアンが案内してくれた冒険者ギルドは城塞都市と呼ばれているデリアらしく3階建ての石作りの建物。


「よし、全員ついてきてくれ」


 町中を爆走していた事もあり、大通りを歩いていたデリアの住民たちは俺達を驚きと興味を含んだ視線で見てきているが、いま、それはどうでもいい。

 両開きの扉を開き、中に入ると、仕事を終えたであろう冒険者達の姿が。

 殆どの冒険者は町中での作業を――、日雇いの仕事を終えたのだろう。

 その賃金をカウンターに座っている冒険者ギルドの受付嬢から受け取っていた。


「すまない。急ぎの用事があるんだが」


 俺は、冒険者ギルドの受付を行っている女性の中でも比較的手際がよく年配の女性に横から話しかける。

 もちろん、手続きをしているであろう20代後半の冒険者は横から入られた俺を快く思わないのか睨みつけてくる。


「おいおい、何を横入りしてきてるんだ! 貴様は!」

「すまない。急用でな。とりあえず、これで勘弁してくれ」


 俺はアイテムボックスから金貨を1枚取り出し男に渡す。

 金貨1枚で、町中の仕事なら10日分に相当するはず。


「お、おお……。べ、べつに良いぜ! 助け合いは大事だからな」

「恩にきる」


 俺は、さらに金貨を30枚ほどアイテムボックスから取り出す。


「エミリア、ここに並んでいる連中に順番を譲ってくれと言っておいてくれ。――で、金貨を1枚ずつ渡しておいてくれればいいから」

「は、はい」

「あの……。そういうのは、少し困るんですけど……」


 目の前で繰り広げられている様子を見ていた冒険者ギルドの受付嬢が困惑気味に話しかけてくるが――、


「すまない、緊急の用なんだ。とりあえず、ここの責任者に合わせてもらえないか?」

「責任者と申しますと……、ギルドマスターですか?」

「ああ、急いでくれ」

「ですが――、きちんと順序を……」

「冒険者カズマと言えば分かってくれると思うが?」


 俺の言葉に、全員の視線が一斉に向けられてくる。


「か、カズマって……カズマさんってケインやハイネを救った……」


 どうやら、俺の情報封鎖は上手くいっていなかったらしいな。

 まぁ今は、感謝するとしておこう。

 利用できるからな。


「ああ、そのカズマだ。すぐにギルドマスターに合わせてくれ」

「わ、わかりました!」


 俺の名前を聞いた受付嬢は椅子から立ち上がると、建物内の階段を上っていく。

 その後ろ姿を見たあと、俺は一息ついた。

 

「カズマ。とりあえず皆さんに納得して頂けました」

「よし、じゃあとは……」


 俺は次の作戦に出る為に、隣の冒険者ギルドの受付嬢へと視線を向ける。


「――え? な、なんですか?」


 何を要求されるのかと不安そうな表情を見せる受付嬢。


「いま、ここにいる冒険者を全員雇いたい。依頼書を作ってくれ」


 下手するとデリアが戦場になる可能性がある。

 その前に、戦力の増強が必要だ。

 そこで俺は冒険者ギルドへ個人名義で依頼を掛ける事にした。


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