第105話 デリア総督府消滅(5)

 セリアンとミエルを幌馬車に乗せる。


「マスター、この者どもはどうするのだ?」


 リオンは、裏庭に横たわっているゴロツキを指差すが――。


「とりあえず、コイツだけ連れていくか」


 俺は地面の上に意識を失って倒れているデジルの腕を掴み幌馬車へ向かって投げる。

 投げる際にゴキッ! と言う音が聞こえてきたが、まぁ問題ないだろう。


「よし、エミリアは早く乗ってくれ」

「はい」

「マスター、妾は?」

「お前は、馬車を引け! おそらく、これからは色々と大変なことになるからな」

「了解した。マスター」


 俺は、幌馬車に繋がっていた馬具(ハーネス)を外す。

 そして、代わりにリオンが手持ちの部分を掴むのを確認すると御者席に座る。


「セリアン」

「はい。何でしょうか?」


 ちょっと俺の横に座ってくれ。


「はい……」

「これから冒険者ギルドの場所を――、方向を指示してほしい」

「わ、わかりました……」


 俺は、御者席の横にセリアンを座らせて支える。


「エミリアは、ミエルが転がらないように支えてくれ」

「はい!」

「リオン、出発だ!」

「了解した。マスター」


 リオンはハーネスを両手で掴んだまま、走り出す。

 それも何トンもの幌馬車を引いているとは思えないほど、軽やかな足取りで。

 

「カズマ。こんなに急ぐのは……」

「おそらく、総督府が何か仕掛けてくる可能性がある」

「そうですか」


 エミリアが意を決した様子で呟く。


 まだ日は高い。

 だが、残された時間は多くはないだろう。

 相手がスケルトンを差し向けてきたという事は、すぐにでも――。

 

 馬車が宿の裏庭から表通りのメインストリートに出て、20秒ほど走る。

 すると、通り過ぎた宿の方へと向かっていく一団が。

 それは騎士団。

 おそらく総督府の騎士団だろう。

 その一団は俺達が出てきた宿の裏庭に繋がる道へと入れ替わりに入っていく。


「ギリギリ間に合ったというところか」


 あの状態で、俺達の姿があったのなら何か嫌疑をかけられた可能性がある。

 ――いや、可能性ではなく、今も現在進行形で嫌疑をかける準備が進められている可能性があるな。


 セリアンは、幼女が馬車を引くという異常事態に驚きつつも、俺が考えている間にリオンに道順を指示していく。


「――さて……」


 俺達は大通りを一陣の風のように、城塞都市デリアの中を冒険者ギルドに向けて駆け抜けていく。



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