第203話 王都リンガイア(2)第三者視点
――王都リンガイア近郊のランツェル高台。
そこは、人口20万を要する城塞王都であるリーン王国の王都を一望できる場所であった。
時刻は既に夕刻――、太陽が落ちかけた夕暮れ時。
高台に立ち王都を眺めていた体長が3メートルを超える白い体毛に覆われた二足歩行の白虎が居た。
筋肉隆々な鋼のような肉体を持つ虎は、鋭い眼光で王都を睨みつけていた。
「タカシ様」
そんな白虎に近づき話しかけたのは、ヒョウのような頭部を持つ二足歩行の獣人族であった。
「どうした?」
「何故に、リンガイアを攻め落とさないのですか? 魔王様からは、迅速に王都を攻め落とすようにと命令が下されていたはずですが……」
その言葉に、口元に笑みを浮かべた元・勇者の最後の男である金子隆は口を開く。
「決まっているだろう?」
「決まっている?」
「ああ。港町ケインで魔王軍が冒険者連中と戦い大損害を受けた件を、お前も知らぬ訳ではないだろう?」
「はあ……」
よく分かっていない自身の参謀である黒いヒョウの体毛を持つ獣人を見て、金子は不機嫌そうな表情になる。
理由は簡単であった。
破竹の勢いを誇った魔王軍の侵攻。
それがリーン王国に来てからというもの、完全に勢いを失うどころか魔王軍四天王は壊滅状態。
さらに10万近くの魔物である軍も失っているという始末。
学生時代には、それなりの学力を有していた金子隆にとって、それは慢心から来た敗北としか、その目には映っていなかった。
「いま、魔王軍の戦力をこれ以上失うことは、避けなければいけない。それは分かるな?」
「――ですが、それでしたらタカシ様の力で」
「お前は、何も分かっていないな」
「――どういう事でしょうか?」
「相手が自滅するまで待つのが、戦争ではもっとも有効な方法だということをだ」
「はあ……」
「――ちっ」
舌打ちをする金子。
彼からしてみれば、この世界の学力は目を覆うばかりに低い。
それは皆月茜や高山浩二にも言える事であった。
ただ、彼らは親が、それなりに利用できる人材であったから一緒に居たに過ぎない。
「よく考えてみろ。ここから見れば分かるだろう? 街道を封鎖している以上、王都には食糧などが外部から供給されることはない。それに、畑などは壁の外に存在している。そして王都リンガイアには20万人近くの人間が生きている。つまりだ……、このまま街道を封鎖して王都に閉じ込めておくだけで勝手に食糧を巡って争い合いが始まるということだ」
「なるほど……」
そこまで説明したところで、ようやく理解を示した参謀に溜息をつく金子。
「ほら、見て見ろ」
金子に言われるがまま、黒いヒョウは王都リンガイアの方へと視線を向けた。
その彼の視線の先――、王都の至るところで対立し口論をする人間達の姿がハッキリと映った。
「なるほど。さすがは勇者様」
そうヒューマが語った時であった。
彼の視線は――、世界が一回転する。
それと共に、強烈な衝撃と痛みが彼の脳髄に叩きこまれる。
「あ……が……」
刹那の時間――、瞳が瞬く間に、ヒューマである獣人族の彼の体は四肢が砕け、骨が露出し地面に這いつくばっていた。
「今度、俺を女神の下僕の呼び名で呼んだら殺すぞ?」
そう吐き捨てるように、金子は足を踏み下す。
グシャッ! と、言う音と共に地面に倒れていた獣人族は、その頭を粉々に砕かれ絶命する。
「まったく……。どいつもこいつも屑ばかりだ!」
そう金子は呟く。
そして獰猛な笑みを浮かべると天を仰ぎ見る。
「地球か。魔王を殺し、女神を殺し、そして俺が地球の支配者になってやる! ハハハハハッ!」
誰も存在しない高台に、金子の狂気を含んだ笑いが響き渡った。
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