第215話 エピローグ(2)

 歓声が鳴り響く中、俺達は女王シルフィエットの案内により城内へと案内された。

 通された部屋は、学校の教室が二つほど入るほどの広さがあり、至るところに手の込んだ装飾が施されていた。


「これは、ずいぶんと歓待されていますね」


 エミリアは、部屋の中を見渡すと近くのベッドへと腰を下ろしていた。


「そうなのか?」

「その通りでございます。こちらは、諸国の王族の方をお招きした際に、利用される貴賓室となっております」

「おおっ――」


 俺は、思わず声をあげてしまう。

 俺達の案内を女王さんに頼まれたメイドが、まだ居たからだ。

 

「この部屋なんだろう? 俺達が泊る部屋は」

「はい。さようでございます」

「……」

「……」


 俺と30歳前後のメイドは、無言になる。

 

「もう帰ってもいいんじゃないのか?」

「湯浴みを手伝うというのもありますので」

「それは大丈夫だから! ――と、とりあえず仲間達と、今後の話もあるから」

「畏まりました。それでは、何か要件がございましたら、そちらのテーブルの上のベルを鳴らしてください」


 そう、言い頭を下げるとメイドは部屋から出ていく。


「はぁ」

「カズマ、大丈夫?」

「ああ。ちょっと、ああ言うのは慣れないよな」

「そうですね。一般の方は――」

「そういえば、エミリアは王族だから、やっぱり、ああいうのは居たのか?」

「はい」


 コクリと頷くエミリア。

 ただ、その表情はあまり明るいものではないというのは分かる。

 やはり、過去の問題から色々と思うところはあるんだろうな。


「マスター。今後の話というのは……」

「ああ。とりあえずだが、今後のことだが、リーン王国で褒美などを貰ったら獣人国ワーフランドへ向かおうと思う」

「それは、つまり奥方様の国を守るということですか? 主」

「そうなるな」


 リオンとイドルに答えたあと、俺はエミリアの方を見る。


「エミリアも、それでいいか?」

「はい。でも、カズマはいいのですか? 間違いなく魔王軍を退けたのはカズマの力です。人は魔王軍とのためにカズマを旗頭に戦力を結集しようとするはずです。とくに異世界から呼び出された人間ではなく、この世界の人間ですから……。この世界の人から見たら、自分達の世界の人間が魔王軍と戦えるほどの力を持っているとなりますから……、その士気は、必ず向上すると思います」

「向上か」

「カズマは、勇者とか英雄とかはあまり……」

「好きではないな」


 俺は肩を竦めながら答える。


「うむ。マスターは、勇者や英雄などという小さき器ではなく魔神様ですからのう」

「そうだ。我が主は、神たる魔神! 勇者や英雄などという小物と同じ扱いをされては困ります!」

「そうなのですか……」


 そこでエミリアは、ホッとしたような表情を浮かべる。


「なんでだ? 俺が勇者とか英雄じゃない方がいいみたいに聞こえるが?」

「――いえ。良い悪いではなく……、そういう肩書を持つ方で、言い噂を持つ方は殆どいないと聞いていますから……」

「なるほどな」


 誰かに認めて貰いたい――、そんな理由の為に正義を為そうとしても、それは正義の何たるかを理解していない証拠だ。

 正義というのは人の数だけある。

 つまり英雄や勇者というのも人間から見ればそうかも知れないが、魔族から見たら殺戮者として映る場合もある。

 正義なんてものは、その程度のものだ。


「まぁ、俺はただの人間だからな」

「それはないかと……」


 エミリアが、ニコリと微笑みツッコミを入れてきた。

 




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