第314話 異世界からの帰還(3)
「閉まったようだな……」
そう一人呟いたあと、俺は病院だと思われる屋上へと視線を向ける。
屋上は、飛び降り防止のために金属の金網の囲いが張り巡らされていて、外には簡単には出られないようにされていた。
ただ、よじ登れば、外には出られそうだ。
まぁ、今の俺は金網の外に居るから中に入るという言葉が正確だが。
「人の気配は無しか……」
金属のフェンス――、その外側の金属の囲い。
その二つの転落防止のための囲いの内側には、シーツが干されているという事はなく、掃除もマトモにされていない無機質な打ちっぱなしのコンクリート床が広がっていた。
とりあえず、隠れられる場所は、クーリングタワーくらいしかない。
ただ屋上に誰か来るような気配はない。
「まずは服を手に入れるか……」
病院の壁に捕まっていた時に気が付いたが、やけにスースーと風遠しが良いと思ったら病院服を着ていた。
これだと、俺が病人だという事が一目でわかってしまう。
それだけは、これから行動をする上で色々と不利になるだろう。
「洋服か……」
病院の設計図も分からない。
そんな中で洋服を手に入れるのは、かなり難しい。
夜までやり過ごして、闇夜に乗じて行動するというのもありだが、現状、自分がどこに居るのかくらいは把握しておかないと。
屋上から外を見下ろす。
外は、一面見渡す限り緑――、森林しか見えない。
そして俺が居る建物の周辺には3つほどの建物――、最後にコンビニが視界に入った。
「コンビニなら何かあるかも知れないが……、カメラなどが設置されているのは普通だからな。そうなると安全面から見て、コンビニは避けた方がいいか」
そう俺は結論付けると共に溜息がでる。
どうして、こんな事になったのか? と――。
そもそも、ここが元々、俺が居た世界ならシステムメッセージなんて聞こえるわけがないので、注意深く考えているわけで……。
「まったく面倒なことだ……。それにしても、セブン系列のコンビニか……。――と、なると、ここは日本だという可能性は高いよな……」
そう結論付ける。
あとは、ここが、どれだけ山の中の施設かどうかという事になるわけだが……。
一般の患者がいるのなら、そこまで山奥の施設でもないと思うが……、可能性は可能性だからな。
「――とりあえず、道路沿いに山林の中を移動したいが……」
そこまで言いかけたところで、俺は再度溜息をつく。
山間部を歩こうにも靴がないのだ。
「まずは来客用の靴箱からサンダル……いや、待てよ?」
俺はトイレに戻る。
そして、トイレ用の上履きが置かれている事に気が付く。
室内用の病院が用意したスリッパよりかは、サンダルの方が遥かに丈夫だろう。
何せ足裏の部分は木材で出来ているのだから。
トイレの中に戻った後、迅速にトイレサンダルを奪い取り、もう一度、トイレの窓から外に出る。
そして1階まで、建物の壁を伝って下りたあと、トイレのサンダルに履き替える。
サンダルに履き替えた後は、森の方へと向かって走る。
体は、ゲームの世界の中のように軽い。
跳躍して見れば、森の中に無数に生えている木々の枝の上に一回の跳躍で到着することができた。
「一足飛びで……20メートル近くを跳躍?」
目を見開く。
自分の身体能力が、身体強化せずともゲームの――、アルドガルド・オンラインの世界の中に居るかのように扱う事が出来たから。
「ステータスは見ることはできないのか……」
先ほど、視界内に表示されたウィンドウ画面が開くことはないし、アルドガルド・オンラインの世界で自由自在に扱うことが出来たシステムウィンドウも開かない。
「まったく……何が、どうなっているんだ……」
早く戻らないといけないのに……。
俺が、この世界にずっといたらエミリアに迷惑をかけることになる。
「はあー、まったく……どうしろっていうんだ……」
何の情報もないのに……。
ただ、一つ救いがあるとしたら身体能力だけはゲーム内に準じているという点か……。
それと確認しておくことがあるな。
「無属性魔法LV1 シールド!」
体の周囲に、透明な防御膜が展開される。
どうやら魔法も普通に使えるようだ。
妙な部分のところだけゲームの世界のようだ。
身体的ステータスと魔法、それだけ使えれば何とかなりそうだ。
あとは洋服と金と、現状の確認だな。
とりあえず森の中――、枝の上と枝の上をジャンプで移動しながら、自身の足跡が、森の中に残らないように移動していく。
もちろん、森の中を無暗矢鱈と移動すると自分の場所が分からなくなるので、病院から伸びる道路を横目に確認しつつ森の中を移動する。
体感時間として10分ほど、枝と枝の上を移動したところで、車のエンジン音が聞こえてきた。
慌てて、隠蔽の魔法を使う。
それと同時に、俺の視線の先を車が通りすぎる。
車の数は11台。
どの車も黒塗りで、窓にもスモークが貼られていて車内を確認することができない。
「俺に関係は……あるよな……」
無くても関係あると仮定して動いた方がいいだろう。
ただ一つ有力な情報を得ることができた。
この道路を真っ直ぐに向かえば車が向かってきた場所へと移動することが出来るということだ。
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