第315話 異世界からの帰還(4)

 周囲に気を配りながら、道路沿いに生えている木々の枝を飛んで移動していく。

 そうしていると20分ほどで、下り坂になり突き当りにクリーム色の壁が見えてきた。

 壁の高さは3メートルほどで、それほど高くはない。

 まぁ、普通の人間にとっては高い壁ではあるが、異世界に居た時と同じ身体能力を有している俺にとっては、大した高さではない。


「さて――」


 一人呟きながらも、側面に見える道路を先――、詰め所のような建物と、スライド式の門扉を注視する。

 視線の先には、門扉――、鋼鉄製の扉が閉まっている。

 次に、詰め所へと視線を向けた。


「人数は……、一人、二人……三人か。着ている服装は、制服か……」


 制服と言っても、警察のような服装ではない。

 そして警備員のような服装でもない。


「あれは……なんだ?」


 白色――、ズボンから上着まで真っ白な服装で、まるで怪しいカルトの宗教関係の人間が着るような服装。


「そういえば……」


 ふと思い出す。

 服装に思い至る節があったからだ。

それは、あるカルト宗教の服装。


「たしか……、パソナ・ウェーブという宗教団体だったか……」


 俺は、詰め所を木の枝の上から見下ろしたまま思考する。

 パソナ・ウェーブ。

 俺が知っている情報は多くはない。

たしか、パソナ・ウェーブのトップは日本経済を破綻させようと暗躍している元・経済産業省の大臣、竹本重蔵だったはず。

そして、カルト宗教団体へ資金援助をしているのは、派遣会社パソナ・グランドという事を、週刊誌が報じていたことがあった。


「つまり、ここは宗教団体パソナ・ウェーブの施設ってことか……」


 あくまでも俺の憶測が間違っていなければという前提になるが。

 それなら――、


「やりようはいくつかあるか」


 枝から跳躍し壁を越えたあと、道路に着地することなく遥か先の森の中へと飛び込む。

 もちろん、枝の上に着地することは難しいので、落下途中に枝を掴み、地面の上に着地せず、地面から10メートルほど高さで、枝を掴んだまま詰め所の方を見るが、詰め所には動きは見受けられない。

 上手く外へ出られたようだ。


「さて……」


枝にぶら下がったまま、外から詰め所の方――、門の方へと視線を変える。

そして門の近くのプレートを確認する。

そこには『太陽波研究所』と書かれていた。


「太陽波研究所ね」


 読んで字のごとく、まんま『パソナ・ウェーブ』だが、本当にそうかどうかは分からないので、今は置いておくとする。


「――さて……」


 とりあえず真偽のほどは横に置いておくことにして、俺は道路伝いに、木々の枝を足場に、移動する。

 それから30分ほどで、警察車両が視界に入った。


「パトカーか……」


 パトカーの数は5台ほど。

 山奥の2車線の道路を、パトカーを使い完全に封鎖している。

 封鎖している理由は不明だが、警察が関与しているということは――、


「面倒ごとにならなければいいんだがな……」


 俺は警察官とパトカーを横目に見ながら、森の中――、枝と枝の間を高速で移動する。

 もちろん、一切! 音を立てることもなく。

 パトカーと警察官の横を通り過ぎ、しばらく移動すると左手に平屋の一軒家が見えた。


「一軒家か……」


 一目で分かる。

 廃屋になっていることが。


「あそこなら、洋服が手に入るか……」

 

 今の入院着だと、一目でバレるからな。

 廃屋なら丁度いい。

 もしかしたら何かしらの服が手に入るかも知れない。

 廃屋へと向かう。

 そして、気配を探るが周囲には人の気配はない。

 それに、廃屋には電子機器が設置されている可能性は少ない。

 つまり、監視カメラなどが設置されている可能性は限りなく低い。


「――さて、どうしたものか……」


 まずは、自分の身体に雷魔法を流す。

 そして、すぐに回復魔法をかける。

 理由は簡単だ。

 俺だったら、寝ている人間にセンサーを付けることくらいは考えるからだ。

 もしかしたら泳がされているだけの可能性もある。

 そういうことを考慮に入れた結果、自身の身体に雷――、大電流を流して、体に埋め込まれているかも知れないセンサー機器を破壊し、死ぬ前に回復魔法で修復を促した。


「――さて」


 俺は電柱へと視線を向ける。

 電柱から低電圧配線、テレビ、電話などの線は廃屋には伸びていない。

 これならバッテリーや、蓄電池などで動いているセンサーでない限りは問題ないだろう。

 

「いくとするか」


 廃屋に向かって走り、窓から廃屋内に入る。

 廃屋内は、残念ながら、かなり荒れているが、引っ越しではないようで、荷物や家具が、そのまま置かれている。


「これは、丁度いいな」


 廃屋内を見回る。

 すると、子供部屋だろうか?

 女の子の部屋と思わしき部屋に足を踏み入れる。

 そこには、女性特有の下着や洋服が散乱している。

 さらに壁には、カレンダーが置かれている。


「西暦1999年年12月か……」


 カレンダーが開かれている年月日。

 そこに書かれている日付は、少し思いいたるところはあったが、無視することにして、女性の部屋の中を物色する。

 机の上には、埃が積もっているが、それは薄っすらであり、長期間、廃屋が放置されていたという感じではないようだが……。 





 

 

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