第114話 デリア総督府消滅(14)

「――くっ。余計なことに考えを割いている時間はないか」


 ラムドも、もはや話が通じないと理解し、俺が渡したブロードソードを鞘から抜く。

 そして――、兵士が20人同時に突っ込んでくる。

 その中に、俺は一足早く突っ込む。


「馬鹿な! それでは取り込まれるぞ!?」


 ラムドの言う通り四方八方から振り下ろされてくるブロードソードの刃。

 それら刃の全てを俺の回転回し蹴りが全て粉砕する。

 砕けた刃が周囲に飛び散るだけでなく、俺達を攻撃してきたフルプレートアーマーの鎧に突き刺さり、その衝撃により兵士が全て放射状に吹き飛ぶ。


「なん……だと……」

「とりあえず、こんなものか」


 俺は首を鳴らしながらラムドの方へと視線を向ける。


「素足の蹴りで、刃を――、鋼鉄を砕いた!? こんな事が出来る冒険者がDランクだと……」

「うっ……」


 驚愕しているラムドの他所に、俺がヒールをかけたアイゼンが身じろぎする。

 俺は駆け寄り彼女の上半身を抱き上げる。

 少ししてまつげを動かすと、ゆっくりと瞼を開けていく。

 しばらく虚ろな眼をしていたが、瞳には徐々に力が蓄えられていく。


「お前は……。一体、何が……どうなって……」

「どうやら、お前は魔王軍の傀儡にはなってはいないようだな」

「何を言って……」


 周囲を見渡すアイゼン。

 そして――、


「そうか……。魔王軍が来たのか……」

「正確には、兵士が魔王軍に操られている」

「なん……だと……。そんな馬鹿なことが……」


 アイゼンは俺の肩に手を置くと、俺を支えにして両足で立ち上がり、震える足で総督府の方へと歩きだす。


「何処に行くつもりだ?」

「決まっている! このような状況に置かれているのなら――、デリアが魔王軍に襲われているのなら、カーネル様を助けねば」

「そうか」

「アイゼン。貴公だけが意識を乗っ取られなかった理由は分からないが、すでにカーネルが、傀儡にされていた場合はどうするつもりだ? それを助けるなぞ言うのか?」


 歩き始めたアイゼンの背中に向けてラムドが声をかける。

 その声は冷静にして冷徹。

 わざと感情を廃したかのように。


「それでも主君を助けるのが騎士の務めだ!」

「やれやれ、仕方ないな」


 俺は肩を竦める。


「『ヒールLV10』」

「こ、これは……」


 アイゼンの体の周囲に光の粒子が舞い上がり、その身体を完全に治療する。

 

「これで普通に動けるはずだ」

「カズマ……貴様は……」

「別に、お前を助ける為にヒールをしたわけではない」


 そして、俺はラムドの方へと視線を向ける。


「ラムド。冒険者ギルドは、国の一機関として総督の真偽を行うんだろう? だったら、身近にいた人間も一緒に連れて行った方が効率はいい。それだけのことだ」

「……なるほど……」


 俺の言葉に納得したのかアイゼンは頷く。

 まぁ敵からの塩は受け取らないという考えなのだろう。


「――それに……」


 俺は呟く。


「まだ何かあるのか?」


 ラムドが俺に話しかけてくる。


「総督府と関わっていた連中は俺に喧嘩を売ってきた。だから――、ここからは俺の喧嘩だ」



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