第42話 莫大な報酬

「知っている天井だ……」


 目を覚ませば、何時も泊まっている宿屋の天井を見上げていた。

 

「一体何が……」


 体を動かそうとしたところで激痛が走る。

 どうやら、エミリアのヒールでも、即時回復出来ない程の痛手を被ったようだ。

 体中、包帯でぐるぐる巻きにされている。

 しかも、所々、血が滲んでいることから、傷口も完全に治癒してないらしい。

 まぁ、メテオストライクを、ほぼ至近距離で受けたから致し方ないとも言えるが――。

 とりあえず『ヒールLV10』を発動。

 体中の傷や痛みを消し去る。


「とりあえず魔力は回復したって感じだな」


 布団から降りると、俺は裸だった。

 急いで服を着ていると部屋の扉がノックされ、水が入った桶を片手で持つエミリアが入ってきた。

 そして――、自然と俺のエミリアの視線は交わる。


「カズマさん……?」

「お、おはよう。エミリア」

「もう、こんにちわの時間ですよ? カズマさん……。無事に目を覚まして良かったです……」

「そ、そうか。心配かけたな」

「本当ですよ! 心配したんですからね! 本当に、心配して……」 


 ぽろぽろ、涙を零すエミリア。

 

「わ、悪かったから。今度から、本当に気を付けるから」

「はい」


 さっきまで涙を流していたのは何だったのかという程の笑顔に、俺は思わず心の中で溜息をついた。




 ――着替えたあとは、冒険者ギルドへ向かい、冒険者ギルドの建物の前に到着した頃には日は沈みかけていた。



「冒険者ギルドに来るのは久しぶりな気がするな」

「――え? だって、カズマさん、一週間くらい寝ていましたよ?」

「そんなにか!?」

「はい」


 一週間って、栄養とか摂らなくて俺、良く生きていたな……。

 

「一週間も寝ていた割には、あまりお腹も空いてないし、喉も乾いてないな」

「それは……」


 頬を赤く染めて俺から顔を背けるエミリア。

 俺、何か人間として問題のあるような事をされたのでは? されてないよな? 聞くのが怖いから聞かないけど。


「おーっす」


 冒険者ギルドの両開きの扉を開けて中に入る。

 すると、冒険者ギルドの中には、殆ど人影がない。

 しかも、いつも酒を飲んで酔いつぶれているような冒険者達もいない。

 一体何がおきたのか……。


「あっ! カズマさん!」


 冒険者ギルドの建物内を見ていたところで、俺を発見したであろうソフィアが、ツインテールの栗色の髪の毛を揺らしながら小走りで近寄ってきて――、ふらついて……、倒れたと同時に木製のテーブルの角に頭をぶつけた。


「おい! 大丈夫か!」


 頭からドクドクと血を流しているソフィア。


「ヒールLV10発動」

「はっ! 私、意識が遠くなって……」

「意識が遠くなるって、目の下に隈が酷いようだが、どれだけ寝てないんだ?」

「一週間ほど寝ていません。倒したモンスターの処理や事務処理が山のようにあったので……」

「なるほど、デスマーチか。俺も14連勤した事あるから分かるぞ。10日目あたりからはハイになるから大丈夫だ」

「どういう生活環境なんですか……カズマさんもソフィアさんも……」


 IT企業では月300時間の残業とか普通だったからな。

 14連勤とか普通。

 むしろ残業代すら出ないまであるし。


「えっと、とりあえず、カズマさん。報奨金が出ています。魔王四天王を倒した功績も鑑みて金貨5万枚が進呈されることになりました」

「5万枚……」


 日本円換算で50億円。

 もう働かなくていいのでは……。





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