第301話 王墓ダンジョン(16)

「――な、なんだ!? ――こ、これは!?」


 思わず動揺が声に出てしまうが、エミリアは離れたところにいたのか近寄ってくることはない。

 俺は表示されたログをクリックする。


 ――アルドガルド・オンライン運営からの大事なお知らせです。


 アルドガルド・オンラインはサービスを開始して30年が経過しております。

 先日、導入実装を致しましたアルドガルド・オンラインの過去の歴史追体験新シナリオ『魔王の行進』についてですが、幾つかのバグ報告を受けております。

 アルドガルド・オンラインサービスでは、本来、経験を経て覚えるスキル・魔法が無断で覚えられてしまうという特殊事例が確認できました。

それに共だって全サーバーにて、原因不明のバグが発生しており、サーバーの復旧に関して全力を挙げております。

 それと、連日、報道されているアルドガルド・オンラインをプレイしているゲームユーザー様が、何百人と原因不明の急死をしているという報道に関してですが、当社のサービスとは一切、関係ありません。

 そこで赤いウィンドウが閉じる。


「……魔王の行進? 過去のアルドガルド・オンラインの歴史追体験シナリオ? どういうことだ?」


 ログを読み終わった俺は呆然と呟く。

 ここに来てからの――、いや違う。


「待てよ……落ち着け……」


 一端、考えろ。

 俺は、手紙を手にしたまま自分を落ち着かせるように言い聞かせながら高鳴る心臓の鼓動を落ち着かせるように口にする。

 俺は近くの椅子に座る。

 そして足元の床を見下ろしながら手にしていた手紙へと視線を向けると手紙は光る粒子になって消えてしまう。

 それが一層、俺の焦燥感を掻き立てた。

 そう――、自分が知らない何かが起きているのではないのか? と、言う点に。


「――ッ」


 まさか! そんな馬鹿なことがあるわけが……。

 だが! このタイミングで、この情報が出てくることが本当にありえない事なのか?

 そもそもな話。

 アルドガルド・オンラインでは、獣人族というのは存在しない。

 つまりワーフランド王国自体が、アルドガルド・オンラインの世界ではサービス開始当初から無かったものだ。

 それが、ここに来てMAPは存在しないが、国が存在しているという意味不明なことが起きている。

 魔王の話もそうだ。

 魔王なんてものは、元々、アルドガルド・オンラインの世界にはイベントですら、出てこなかった。


「くそっ! 考えが纏まらない! 大体、何だよ……。新シナリオ実装とか……」


そんな話、俺は聞いたこともないぞ? 攻略通信を全て丸暗記していて、海外のサイトも見ていた俺が知らない新シナリオが、実装された――、もしくは、実装されたとしても、事前情報は、必ず入ってきたはずだ。それを知らないということは、ありえないはずだ。


「それに――」


 俺は消えた赤いウィンドウのログを思い出す。 

 連日報道されているという原因不明の急死。

 数人なら分からなくもないが、何百人もとなると話が変わってくるが、判断材料が足りなさすぎる。

 他に封筒には、何も――。

 俺は封筒を逆さまにする。

 すると半透明な1センチ四方のキューブが手の平の上に転がってきた。


「幸運のキューブか?」


 どうして、こんな物が? と、考え込んだが、考えたところで分かるはずもない。

 幸運のキューブをクリックするが、何の反応も示さない。

 仕方なく俺は封筒ごとアイテムボックスへと入れたあと、深く溜息をつく。

このワールド・オブ・ダンジョンといい何かが起きている事だけは確かだ。

だが、それが何かまでは分からない。

そこが、気持ち悪い部分ではある。


「カズマ!」

「エミリア、どうかしたのか?」

「――いえ。何だか、カズマがすごく青い顔をしていたので――」

「そうか……」

「それで何かあったのですか?」

「――いや、何でもない。少し疲れたようだ。それよりも、下の階層に降りる階段を探すとしよう」

「はい!」


 まずは当初の目的である王墓の祭壇への報告が最優先だ。

 それ以外のことは後で考えるとしよう。

 錬金術師の部屋を隅から隅まで探す。

 だが、下へと降りる階段が見つからない。


「見つからないですね」

「そうだな……」


 ゲーム時代なら、すぐに見つかったはずなのに……。

 ゲーム時代なら……。

 ゲーム時代な……。


「ゲーム?」


 ハッ! とした俺は顔を上げる。


「カズマ。どうかしましたか?」


 二人寄り添って地下の階段がないことを考えていた俺が唐突に動いたことで、エミリアは驚いた表情を俺に向けてきていた。


「そうだ。ここは――」

「何か分かったのですか?」

「――あ。たぶんな……」


 ――迂闊。

 今の俺の行動は、その言葉が当てはまっていた。

 それでも、俺は立ちあがりゲーム時代に階段があった場所を目指す。

 エミリアは、そんな俺の後ろを付いてくる。

 そして到着したのは、錬金術師の広間の一角。

 

「無属性魔法LV2の魔法ディテクション!」


 全てのトラップ・姿を隠している魔物やプレイヤーの看過をする魔法。

 俺が発動した魔法は、厳かな鐘を――、錬金術師の広間全体に鳴り響かせた。

 それと同時に、足元――、石畳だと思っていた場所が崩れ、崩れた場所から地下へと通じる階段が出現した。





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