第271話 ワーフランド王国 それぞれの思惑 第三者Side

 カズマ達が、ワーフランド王国に入国し、王宮で暮らすようになってから一週間が経過した頃、ワーフランドの王宮内は混沌を極めていた。


「女王陛下。次はリーン王国の王女殿下シルフィエット・ド・リーン様が起こしになられます」

「分かったわ……」


 疲れた顔色で溜息交じりにエミリアの母親であるグレースは呟く。

彼女は連日、入国してくる他国の王侯貴族や、冒険者ギルドマスターを相手にしていた事で、疲れがピークに達していた。


「(何をしたの? あの人間族は……)」


 文官の前で小言を吐くこともできずに、一人心の中で恨めしく呟くと、グレースは謁見の間に入ってきた金髪碧眼の少女へ視線を移す。


「(この娘が、私の娘を孕ませた男と懇意にしている雌だったかしら?)」


 かなり失礼な言葉を内心で投げ掛けながらも、目の前で立ち止まり貴族の礼をした少女に向けて――、「ワーフランド王国、グレース・ド・ワーフランドよ」と、威厳ある言葉を少女にかけるグレースであった。


「お初にお目にかかります。リーン王国、シルフィエット・ド・リーンでございます。女王陛下にあらせられまして壮健そうで安心しましたわ」


 カズマが、ワーフランドの王宮に滞在してからというもの他国からの要人を引っ切り無しに受け入れ疲れきっているグレースに対しての皮肉とも呼べるシルフィエットからの挨拶であった。


「――そ、そう……。それはなにより。それよりも此度の力を見せる儀式に置いて、多くの国々の大使や王国貴族が我が国に来られていますが、それはリーン王国からの話だったとか?」

「そんな! 滅相もありませんわ! 私どもも、つい! 最近! 知ったばかりですの。我が領民であり、我が国のSランク冒険者であるカズマが、ワーフランド王国に入国するのでしたら、それなりの通行証を用意する予定でしたの。カズマが迷惑をかけたこと、リーン王国としても謝罪致しますわ」


 グレースの言い分としては、他所の国々にカズマの力を見せる為のワーフランド王国内で行うはずだった儀式を、リーン王国が他国にリークしたのでしょう? と、遠回しに指摘をしていたが、それに対してシルフィエットは、そのようなことは知りませんが? と、シラを切るような発言をする。

 事実、カズマがワーフランド国内にて人間族の力を見せるという儀式を行う事については、他国へ情報を漏らしたのはリーン王国であった。

 そして、今現在、謁見の間において、カズマは自国の冒険者だという事をシルフィエット王女は公言したのであった。


「そう、それは……奇遇ね」

「はい。誠に奇遇でございます」


 カズマが滞在してから4日が経過した頃から、他国の王侯貴族を相手にするようになり疲れ切っていたグレースは、目の前の少女を苛立った気持ちのまま見つめる。


「ところで、我が領民であるカズマは王宮に滞在していると聞きましたがお会いしても?」

「申し訳ないけれど、儀式が始まるまでは、何人たりとも近づいてはいけない決まりになっているの」

「そうですか」


 シルフィエット王女は、若干、落ち込んだ表情を見せるが、それは演技であった。

 すでにシルフィエットも、本日から王宮内にて滞在の許可を得ている以上、ある程度の交渉や行動は必要ではあるが会えないという選択肢はなかった。


「ええ。まだカズマが、力を見せる儀式――、それまで一週間の時間があるわ。その間に、ワーフランドを見て頂ければと思うわ」

「身に余る光栄です。是非に! ワーフランド王国の政治や経済を参考にさせていただければと思います」


 そう、シルフィエットは、表面上はワーフランド王国を賞賛こそしていたが、実際には腹の中では獣人族が国を運営するなんて! と、見下す部分はあった。

 ただ、彼女は、それを口にすることはしない。


「ええ。それでは、シルフィエット王女、長旅大変だったでしょう。ゆっくりお休みしてくださいね。何か入り用なモノがあれば、侍女を待機させますから」

「お心遣い感謝いたします」


 貴族の礼をし謁見の間を後にするシルフィエット王女殿下の後ろ姿を見送ったあと、扉が閉まる。


「これで今日は全部かしら?」

「はい。女王陛下、大変に政務お疲れ様でした」


 宰相の言葉に、深く息をつくとグレースは立ち上がり謁見の間を後にした。

 謁見の間に残されたのは宰相と軍務卿のジルベルトであった。


「ジルベルト。例の件はどうなっている?」

「問題は無い。それよりも、バークレー。どうやってエミリアは地竜の祭壇から生きて帰って来れたのだ? そっちの方が疑問ではないのか?」

「さてな。だが、事実、エミリア王女は戻ってきた。それも地龍と水龍を配下にして」

「配下って言うが言う事を聞いているのは、あの人間族の若造だろう? カズマという」

「うむ。女王陛下は、カズマに勝てると思っているようだが、お主はどうじゃ?」


 バークレーの言葉に、白く染まった顎鬚を弄るジルベルトは笑みを浮かべる。


「さてな。ただ、あの冒険者がSランク冒険者だという事は本当のようだ」

「ほう?」

「何せ、俺の施設兵が簡単にあしらわれるばかりか城の御堀に落とされたからな」

「なるほど……」


 バークレーは、ジルベルトからの忠告に目を細めた。



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