第272話 サーシャが嫁ぎにきた
王城で引き篭もり生活を開始してから10日が経過し、その間、リーン王国のシルフィエット王女が訊ねてきたり、ハイネ城主や、城塞都市デリアの冒険者ギルドマスターだけでなく、城塞都市デリアの総督府まで面会に来たりと、色々と良い顔をして対応をしていた。
ハッキリ言おう! 立ち合いを願い出てなければいい顔なぞしていいなかったと!
「はぁ、疲れた」
引き篭もりを初めて一週間が経過した頃から毎日のように顔を見せるシルフィエット王女の対応にSAN値をガリガリと削られた俺は室内のソファーの上で横たわる。
「大丈夫ですか? カズマ」
「ああ。大丈夫だ」
「それよりも、カズマ」
「どうした? エミリア」
「私の妊娠については、シルフィエット王女には言わないのですか? その方が、シルフィエット王女殿下も諦めると思うのですが……」
「そうすると立ち合い自体しなくなる可能性があるからな。その点は、ワーフランドも隠したいという思惑があるから、互いに利益が合致している以上、話の核心がシルフィエット王女の耳に入らないのは不幸中の幸いとも言えるな」
「そうですね……」
複雑な表情をエミリアは浮かべる。
「そんな顔をするな。俺の妻は、お前だから」
「はい! 分かっています! 第一夫人は私ですものね!」
いきなり第一夫人とは……。
「それは……」
「だって、ダークエルフ族のカレンさんも召し抱えるのですよね?」
「たしかに……」
エミリアの言っていることは間違ってはいないが……。
「エミリアは、良いのか? 俺が他に妻を娶っても」
「え? だって、貴族とか強いオスは、そういうモノですから!」
そのへんは、ドライなんだな……。
こうして価値観を問われる場面だと、エミリアは純朴そうに見えても根は王族なんだなと実感する。
――コンコン
「はい」
俺は、扉へのノックに反応する。
すると扉が開くと共に、飾り立てた一人の少女が姿を見せる。
淡い薄灰色の肌に、赤い瞳を持ち、漆黒の髪を持つ少女。
彼女はダークエルフの族長の娘であったが、漆黒の肌に、黒い瞳――、そして白銀の髪を持つダークエルフの特徴からは離れた容姿をしている。
「お久しぶりでございます。族長であるエウレカ・ボールドの名代として、伺いましたサーシャ・ボールドでございます」
「久しぶりだな。サーシャ」
「はい! エミリア様も、ご機嫌麗しく――」
「サーシャも、元気そうで何よりだわ」
二人してニコリと笑みを浮かべて挨拶を交わしているのを横で見ながら、俺は口を開く。
「俺の話は、エウレカ達にも届いているのか?」
「もちろんでございます」
サーシャは、洗練された所作で、エミリアの隣の椅子に座る。
すると、部屋で待機していたメイドが、気を利かせてお茶を淹れるとサーシャの前に置く。
俺としては、エミリアが居る空間で他人が一緒に居るのは神経を使うんだが、日が暮れるまでは、ひっきりなしに諸国の王侯貴族が繋がりを作りたいのか顔を見せることもあり、メイドがいないと、ろくなもてなしも出来ないから我慢している。
サーシャは、メイドが淹れたお茶を口にすると、俺を見てくる。
「ダークエルフ族は、情報こそ命ですので」
「たしかに……」
ゲーム内では、ダークエルフは暗殺者と同時に諜報員でもあったからな。
そのへんはゲーム設定に準じているんだなと考える。
「流石は、カズマ様。ご存じていらしたのですね」
「まあな」
長年ゲームしてきたアルドガルド・オンラインでは、俺が知らないことは殆どない。
何せアルドガルド・オンラインの攻略通信を全て暗記していたまであるからな。
「――で、サーシャはエミリアの名代で来たんだよな?」
「はい。あとは、第二夫人としても」
「それは、まだ先なんじゃないのか?」
「え? エミリア様は、ご懐妊されたのですよね? それでしたら、しばらくは発散できませんよね?」
サーシャが、ジッと俺の下の方を見てくる。
「……サーシャ。お願いしますね」
「はい! エミリア様」
それでいいのか……。
この世界の貞操観念って、軽いな……。
――いや、普通なのか?
まぁ、エミリアが同意してくれるのなら、そこは俺も男なわけで……。
「それでは、今日からは、この部屋で寝泊まりしてもいいですか?」
「それはまずいんじゃないのか? あくまでもダークエルフの族長エウレカの代わりで来たんだろう?」
「……そうですわね。わかりました。また夜になりましたら伺いますね」
「カズマは、激しいから頑張ってね。サーシャ」
「お任せください! エミリア様。ダークエルフとして、床は一通り教えられておりますので」
「――そ、そう……。がんばってね」
「はい!」
短い会話――、主に寝床の話をしたあと、分かれを言ってサーシャは部屋から出ていった。
彼女が出て行ったあと、夕食が運ばれてくる。
そのころになると、リオンとイドルが戻ってきた。
食事を摂り終えたところで、俺はリオンとイドルに視線を向ける。
「二人とも、それで何か不審な行動をとる魔族とかはいたか?」
「否定です。おそらくですが、三勇者を倒したことが大きいかと」
「こちらもです」
リオンとイドルには、国境まで毎日、魔族領から魔王軍が進軍してこないか見に行ってもらっているが、今のところ、とくに問題は起きてない。
この分なら、国の警備が疎かになった時に魔族に攻められるというフラグは無さそうだ。
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