第275話 負けを認めない? なら、レベリングで利用させてもらおうか!

 死人こそ出てはいないが、多くの重軽傷者が確認できる中で、リーン王国の王女殿下が、本当に嬉しそうに勝敗を口にしたことで、各国の貴族や王族がざわつく。


「待て! 私は、認めてはいない!」

「お母さま。どう見てもワーフランド王国軍の負けではありませんか?」


 エミリアの母親である女王陛下が、俺を睨みつけてくる。

 まったく――やれやれだぜ。

 それよりも獣人王国ワーフランドの王女殿下が負けを認めてくれないと困るんだが……。


「怪我人がいるんだぞ? それに、もう俺と戦う力は軍は有しているとは思えないんだが?」

「――そ、そんなことはない!」


 とりあえず、どうしたらいいものか? と、考えていると、


「ワーフランド王国の女王陛下。立ち合い人の立場から申し上げたいと思うのだけれど?」


 先ほど、俺の勝敗を嬉しそうに告げてきたリーン王国のシルフィエット王女殿下が、透き通った鈴の音が鳴るような声色で、エミリアの母親であるグレースを見据えて口を開いた。


「どう見ても勝敗は、カズマの勝利で明らかなのは明白だと私は思うのだけれど? ワーフランド王国の騎士と兵士は満身創痍。死人こそ、今は出てはいないけれど、どう見ても反撃することはできないというのは、誰の目から見ても明らかだと思うわ。各国の王侯貴族の方も、どうかしら? この状態でも! 勝敗は決まっていないと言えるかしら?」

「勝手なことを――」


 そう呟いたグレースが、苦々しそうな表情をしたあと、俺を睨みにつけてくる。

 そこで、どうして矛先が俺に向いてくるのか……。

 ただし、一度、傾いた天秤は――、


「そうだな……。魔法を使った部分はあるが……。どう考えても勝敗は……」

「魔法って! あんな魔法見たことが無いわ!」

「伝承に聞く隕石魔法なのでは?」

「それよりも、百人の騎士達の動きを足止めした魔法は見たことが――」

「たった一人で、数千のワーフランド軍を、短時間で壊滅させるなんて――」

「あれがSランク?」

「冒険者の中では最強なのではないか?」

「リーン王国の王女が言っていたが、あれが大国アルドノアを壊滅させた裏切りの勇者を討伐した新たな勇者であり英雄か!」

「四大龍のうち、2龍を従えているらしいぞ?」

「ありえないな。あれがリーン王国の最大の戦力なのか……」

「たった一人でワーフランド王国を殲滅出来るってことか……」

「あれだけの戦力を――、冒険者ギルドに所属しているとは言え有しているリーン王国はこれからの時代、有力な大国になりえる可能性がありますわね」


 次々と観客席から聞こえてくる声。

 そこには、すでに俺とワーフランド王国との戦いの勝敗は、どうでもいいという感じで話し合いが進んでいる。

 話しの内容の大半は、リーン王国の軍事力が強化された事と、そしてイドルやリオンを従えている事が会話の半分を占めていた。


「――わ、私の国は、負けては――」

 

 ほんとに往生際悪いな。

 俺は、どうしたモノかとエミリアの方を見る。


「カズマの好きなようにしてください」


 エミリアの言葉に頷いたところで――、視界に緑色のウィンドウが開く。




 ――必要経験値に達しましたのでレベルが上がりました。

 ――レベルが、251になりました。

 ――ポイントを1、獲得しました。




 どうやらシステムが、戦闘終了を確定させたらしい。

 それに伴って俺のレベルが上がった。

 しかし、数千のワーフランド王国軍の兵士を倒してレベルが1しか上がらないとか、結構きついな。

 今の上限が、LV500として、今回の大規模な戦闘を、あと249回しないといけないのか。

 カンストまで時間がかかりそうだ。

 そう思ったところで――、


「――ん? これって……」


 ふと俺は気が付き魔法欄をチェックする。

 そして気が付く。


「エリアヒール!」


 俺は、思いつきで回復魔法を範囲展開した。

 それにより倒れていた馬や騎士や兵士たちの傷が一斉に治癒されていく。

 俺が発動させた回復魔法により何事もなく立ち上がる兵士や騎士――、さらに馬たち。


「エミリア! 勝敗をつける方法を思いついたぞ!」

「――え?」

「エーテルストライク!」


 今度は、LV10の火属性魔法ではなくLV9の火属性魔法を発動。

 俺が上空1000メートル付近に作りだした、魔法力で作られた巨大な物体は、音速よりも早い速度で盆地に展開していたワーフランド王国軍の頭上に落ちると巨大な爆発を引き起こし、ワーフランド軍を吹き飛ばす。


「――え?」

 

 そんな声が、観客席から聞こえてきた。

 そして、それを皮切りに悲鳴があちらこちらから上がるが安心してほしい。

 あくまでもダメージを与えたのは相手の精神にだからだ。

 吹き飛ばされた連中には外傷はない。

 ただ、ピクリとも動くことはない。

 そりゃそうだ。

 睡眠魔法みたいなモノだからな!




 ――必要経験値に達しましたのでレベルが上がりました。

 ――レベルが、252になりました。

 ――ポイントを1、獲得しました。




 そして、どうやら俺の目論見どおりレベルが上がった。

 これを繰り返すだけで普通に簡単に! お手軽にレベルが上がりそうだな。


「ワーフランドの女王陛下様! 負けを認めてもらえないようでしたので攻撃をしました! よろしいのですよね?」

「え? ええ!? ――そ、それは……」

「大丈夫ですよ。ワーフランド王国軍は、負けを認めずに戦いを途中で放棄するような真似はしないんですよね? はい! エリアヒール! と」


 俺は回復魔法をワーフランド王国軍にかけたあと――、


「エーテルストライク!」


 また、精神系ダメージ魔法を発動させてワーフランド軍を一掃する。

 そして遅れてウィンドウが開く。




 ――必要経験値に達しましたのでレベルが上がりました。

 ――レベルが、253になりました。

 ――ポイントを1、獲得しました。




「こいつは便利でいいな」


 俺は観客席から聞こえてくる悲鳴と怒号と、絶叫と歓声を聞きながら、エリアヒールとエーテルストライクの組み合わせコンボでレベルを上げることにした。  





 

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