第166話 砂上の戦闘(25)第三者視点

 茹だるような暑さ――、広大な砂漠の中でポツンと存在している荷馬車の中で、休憩をとっていたのは、二人の存在があった。

 一人は、妖狐族のエミリア。

 もう一人は、四大属性竜の中で最強の一角を担う水龍アクアドラゴンのリオン。

 二人は、カズマと別れてから、荷馬車の中で時間を潰していた。


「カズマは、どのくらいで戻ってくるかしら?」


 荷馬車内の幌に体を預けていたエミリアがポツリと呟く。

 その言葉に、幌馬車の中で横になっていたリオンが視線をエミリアに向けると。


「マスターは、何か思慮があって妾らと別れたと思う。奥方様も、それを理解しているからこそ引き止めはしなかったのであろう?」

「……そうね」

「それとも、奥方様はマスターに何か言えない理由があったと?」


 長い時を生きてきた水竜エンブリオンは、人間の機微には疎い部分があったが、最近のエミリアの反応は、リオンですら分かるようなモノであった。

 ただ、リオンとしては、自身のマスターが聞く気がないのなら、エミリアに聞くつもりはなかった。

 このような状況にならなければ。


「それは……」

「奥方様。妾が、勘づいていると言う事は、マスターも気が付いていると思う。別に強制や詮索を妾はしないがマスターには話した方がいいと思うがの。番というのは、互いの問題解決をするのも一つの――何と言ったかの。そうそう、コミュニケーションだと、人間どもが言っていた記憶がある」

「分かっているわ」

「それならいいが!?」


 途中までリオンは言いかけたところで、幌馬車から慌てて外へと出る。

 そして幌馬車の上に昇り周囲を見渡し――、一点に視線を集中させた。


「やはり……。この波動――」


 そうリオンが呟いたところで、幌馬車から少し離れた場所で砂漠が爆発する。


「久しいな。エンブリオン。まさか、貴様がハイネの檻から出てくるとは――。貴様の恋心の成就は叶ったのか?」


 舞い上がった砂塵の中から現れたのは、ティラノサウルスのような姿をした恐竜。

 ただ、その大きさは20メートルほどもあり、体表は茶色の花崗岩のような鱗で覆われていた。


「貴女には関係ないな。地竜ウエイザー。それより、妾に会いにきたのか?」


 肩を竦めるリオン。

 それに対して、何の感慨も抱かない様子で、大きな竜の顎を開ける地竜。


「それもあるが――。契約をした者との決済が近づいてきたのでな」

「決済? どういうことかの?」

「その幌馬車の中にいるであろう? 妖狐族の姫君が。その者と私は契約をしたのだよ」






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