第167話 砂上の戦闘(26)第三者視点

「契約じゃと?」


 リオンは、眉間に皺を寄せ乍ら険しい表情を浮かべつつ口を開いた。

 

「我ら四大竜種の一匹である汝が人間と契約を結んだということかの?」

「そうだと言ったが?」

「そうか……。つまり、それだけの契約内容だったということか?」

「いくら同格の古代竜であり同じ魔神様より作られたとは言え、契約内容は――」

「言えないということだろう?」

「そうだ。それより、エンブリオン。お前こそ、何故に矮小な生物と一緒に居る? 恋心が成就した訳ではないのだろう?」

「それこそ、貴様には関係のないこと」

「まぁ、互いに不干渉が我らの鉄則ではあるからの」


 そう告げると、地竜ウェイザーは一歩歩みを進める。

 20メートル近くある竜が一歩動くだけで、周辺には振動が発生し、ズシン! と、いう重量を伴う音が鳴り響く。

 すると幌馬車から慌てて出てきたのはエミリアであった。


「奥方様っ!」

「久しいのう、エミリア」


 幌馬車から出てきたエミリアを見て地竜ウェイザ―は言葉を発する。

 それは古代竜だけあって魔力が篭った圧力を伴った声という音であった。


「ほう……」


 ただ、それに対して畏怖する事もなく平然と立っていたエミリアを見てウェイザーは感嘆の声を上げる。

 かの者――、この世界において最強の四大竜の一匹である彼女にとって、自身の言霊は人ならば抵抗する事もなく殺すことができる程の威力を誇っていたからだ。

 だからこそ、微動だにしない者に対して関心を抱いたに他ならない。


「あの時は、予定外のことが起きて贄たる汝を手にすることは叶わなかったが、ここまで成長したのならば、それは僥倖だったのだろうよ」


 そのウェイザーの言葉と同時に、エミリアを庇うようにしてリオンが立ちふさがる。


「エンブリオン、何をしている?」

「奥方様を、殺そうと考えているのか?」


 ウェイザーに対してリオンが厳しい視線を送りながら言葉を紡ぐ。


「無論だ。そのために力を貸したのだからな。そうであろう? 獣人の国の姫君よ。汝との契約により私は力を貸した。その代償を払うのは、契約では当然のこと」

「それは……」

「なるほど……。つまり、エンブリオンには、契約の内容に関しては一切! 伝えていないと? そういうことかの?」

「――ッ!」

「それ以上の愚弄は許さぬぞ! ウェイザー!」

「ほう? まさか魔神様が決めた四大竜種同士の戦いを禁ずるという禁句を破るつもりなのかえ?」

「奥方様を守るようにと、妾はマスターに命令されておる!」

「ふむ……」


 遥かなる高見からウェイザーはリオンを見下ろしたあと、腕を振り上げると同時にリオンに向けて、凄まじい速度で振り下ろした。






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