第259話 ようやく軽食がきたな

 室内に戻り、しばらくすると部屋の扉がノックされる。

 返事をすれば、先ほど軽食を頼んだ侍女が室内に入ってきた。


「お待たせ致しました」


 そう頭を下げつつ、可動式のワゴンを推してテーブルまで侍女は来ると軽食――、主にサンドイッチが盛られた皿などをテーブルの上に並べていく。

 

「紅茶でよろしいでしょうか?」


 事務的に聞いてくる侍女に、俺は頷く。

 まぁ、俺に濡れ衣を着せる一歩手前だったのだから彼女も気まずいのだろう。

 感情を押し殺して対応するのがベストだと感じているのかも知れない。

 まぁ、エミリアとかは睨みつけているし。

 よくよく見れば侍女の手とか若干震えているので、反省はしてるようだが……。

 侍女が、軽食と紅茶の用意をし頭を下げて部屋から出ていったところで――、


「謝罪の一つもできないのですね」


 エミリアが、口にする。

 それは俺も思っていたことだ。


「それだけ獣人と人族の間の確執が広がっているのかもな」


 俺は侍女が注いだ紅茶を口にしながら、エミリアに答える。


「それでも、王宮に――、女王陛下の客人として滞在している人間に対して、礼を尽くさないのは王家への反逆と言っても過言ではありません。今からでも――」

「いいから」

「――でも、カズマ!」

「エミリアの言いたいことも分かる。俺のことを案じて怒ってくれることも理解はしている。ただ、あまり敵を作ることは感心しない」

「カズマ、そういう事ではありません。国のトップが客人として迎い入れると言った以上、客人として扱わないことに問題があるのです。それは、カズマだけでなく王家の威信にも関わる問題です」

「まぁ、それはそうなんだがな……。その辺は、全部が終わってから女王陛下に言えばいいんじゃないのか? どうせ、いまの俺を腹の底では女王陛下もよく思ってないと思うし」

「それは女王陛下に伝えても不問にされると危惧されているのですか?」

「まぁ、ひらたく言えばそうだな。だって、俺ならそうするし」

「……そうですね」


 エミリアも心当たりがあるのか幾分かトーンを下げて同意してくる。


「とりあえず、全部終わってから報告すればいいんじゃないのか? まずは、相手にこっちのことを納得させる事が大事だろ? それに獣人族は力が全てだからな。力さえ見せれば何とでもなるだろうし」

「マスター、では本気で妾も殲滅を!」

「我も、地竜に変化して!」

「二人共、戦うのは俺だけだからな」


 ずっと黙っていたリオンとイドルが口を挟んできたが一蹴する。


「どうしてなのじゃ?」

「どうしてですか? 主様」

「エミリアの母親とかワーフランドの連中は俺の実力を知りたいようだからな。向こうからも俺が一人で、戦うことを要求してきた」

「そうなのですか……。マスターおひとりで?」

「ああ」

「主様、魔法などはありなのですか?」

「一応、何でもありだな」

「マスター。それは、相手を殺傷しても良いという事ですか?」

「相手側は、俺を殺すつもりでくるみたいだぞ」

「それなら、マスターなら何とでもなりますね」


 リオンが、笑みを浮かべるが――、


「いや、俺は魔法は使うつもりはないぞ?」

「――え? カズマ!? ――そ、それは、どういうつもりですか?」

「どういうつもりも何も、魔法は使わずに格闘術だけで戦うつもりだ」


 まぁ、正直、魔法で大軍を殲滅してもいいんだが、俺の魔法は威力がありすぎる。

 魔法防御力=MRが高い魔物とか、四天王とか異世界召喚組の元・勇者にぶっぱなすなら問題はないが、俺が魔法などを全力ぶっぱしたら、この世界の低レベルMOBキャラだと、骨すら残らずに全部消し飛ぶ可能性すらある。

 しかも、広範囲攻撃魔法となると、それこそ威力が尋常ではない。

 LV10の火属性攻撃魔法であるメテオストライクとか打ち込んだら、目も当てられない大惨事になることは想像に難くない。

 そして、そんな大魔法を使えば、骨すら残らないのだから、回復以前の問題で、あとあと怨恨とか確執を残すのは少し考えれば分かることだろう。

 それなら、まだ手加減の出来る格闘術で倒した方がいい。


「格闘術ですか……」


 エミリアが神妙な面持ちで呟く。


「さすがは主様。肉体を使う戦いを得意とする獣人族に対して格闘術で倒すとは……、相手の土俵上で相手を完膚亡きまでに叩きのめすということですね」

「マスターの深淵の心、このリオン感服いたしました」


 対して、イドルとリオンと言えば俺を尊敬するような面持ちで見てくる。

 そういう思考で格闘術で倒すと言ったわけじゃないんだが……。

 まぁ、結果的にそうなるのは、もう仕方ないな。

 

「カズマ。手加減とかはしなくてもいいと思いますよ?」

「エミリア、もしかして結構怒っているのか?」

「もちろんです! 私の旦那様を侮辱され続けているのですから怒らない方がおかしいです!」

「そ、そうか……」

「カズマ。頑張ってくださいね!」

「――お、おう……」


 俺は紅茶を口にしながら頷く。

 するとエミリアが、首を傾げハッ! とした表情をすると、


「そういえば、カズマ」

「――ん?」

「立ち合いは呼んでおいた方がいいと思います」


 ――と、口にした。

 


 

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