第258話 後始末は大変だぜ!

「カズマ殿! これは、一体! どういうことか!」


 5人の女騎士の中で、一際身長の高い獣人族の女騎士が俺を睨みつけてくる。


「俺に喧嘩を売ってきたからやり返しただけだが?」


 俺の言葉に、表情を険しくしていく女騎士。


「それは、王宮の騎士に対する侮辱と取っていいのですか?」

「侮辱も何も、そっちから俺に喧嘩を吹っ掛けてきたんだろうが。まぁ、ここで水掛け論をしていても意味がないからな」


 俺はアイテムボックスから記憶のキューブを取り出す。

 

「――な、なんだ! それは!」


 ざわつく女騎士達と、その背後に隠れた侍女。

 そして、エミリアは何も言わずに此方を見てきたまま。

 

「これは、記憶のキューブと言う。起きた出来事を記録することが出来るアイテムだと思ってくれればいい」

「なん……だと……。そんなものが?」

「あるんだなー」


 記憶のキューブは、アルドガルド・オンラインの初期――、オープンベータの時から実装されていたアイテムだ。

 これは、初級アイテムを使い合成して作ることが出来る。

 主に使われる用途としてはスクリーンショットを取るためのベスポジを確保するための動画編集アイテムだったりする。

 後々は、RMT撲滅のための記録映像アイテムとして違う用途で使われるようになったのは、何十年も続いているMMORPGあるあるだったりする。


「じゃ、再生するぞ」


 俺は再生ボタンを押す。




 すると――、映像が空中に表示されると共に音声が流れ始める。


「となりの部屋に侍女が控えているのか?」


 侍女が、食事を用意しに離れて行った場所から再生する。

 その光景に、騎士達の後ろに隠れていた侍女が「あっ!」と、声を出すが、


「そうだが、あまり馴れ馴れしく話しかけられても困る」


 俺からの会話を拒否するかのようにぶっきらぼうに突っぱねる女騎士。

 そんな光景が、音声と共に流れる。


「それにしても露骨すぎるだろ」

「ワーフランド王国の王女殿下をたぶらかした貴殿は、この国にとって最大の犯罪者なのだぞ! 拘束されて即! 死罪にならないばかりか謁見に通されること自体! 稀だというのに!」

「そんなこと言われてもな。そもそも獣人族は強い奴がルールなんだろう?」

「――なっ!」

「だから、俺は何かを言われるつもりはないわけだが? 文句があるのなら、その腰に帯剣している獲物を抜いたらどうだ?」

「それは……、騎士に対する宣戦布告とみなすぞ?」

「別に構わないが?」

「――いいだ!?」


 女騎士が帯剣の柄に手を伸ばした状態で――、女騎士は言葉を発した途中で、俺のアッパーカットを顎にくらい空中に舞い上がり数秒の滞空時間のあと、ガシャ! と、言う音と共に床に落ちる。

女騎士は、大理石の床の上に仰向けになり赤い泡を口元から吹き上げながら倒れるという光景が映し出されていた。


「ふう。すっきりした」

「カズマ? 何か、あったの?」


 一連の騒動が終わったところで、エミリアが部屋の扉を開けて、その姿を見せた。



 俺は、記憶のキューブの停止ボタンを押す。


「――って、ことが、あったわけだが、崇高な王宮の女騎士様の意見を聞きたいわけだが、どうだろうか?」


 煽るような形で、俺は女騎士に視線を向ける。

 女騎士は、顔を青くし――、顔を赤くし――、


「ベルジット!」

「はっ! エミリア様っ!」

「これは、どういうことかしら? カズマが言う通り、王宮の騎士の質は随分と下がったようね。お母様――、女王陛下が客人と認めた相手に、ここまで無礼を働くとは、どういうことか分かるわね?」

「――ッ」


 どういうことだ?

 死刑になるとか?


「エミリア」

「カズマ。この者たちの処分については、近衛騎士ですから、全員が爵位を持つ関係者です。こういう場合は、お家断絶が適切な処分なのですが、それで問題ありませんか?」


 まぁ、普通の封建社会なら――、この世界は王族を筆頭に貴族階級が作られているから、そうなるのは普通かも知れないが、現代日本で暮らしていた俺としては、そこまでと思う気持ちはある。

 何より、人族の俺の件で、獣人族が家名を剥奪されたら遺恨しか残さないだろう。


「――おほん。ここは、俺に決めさせてもらってもいいか?」

「え? ……いいですけど……」


 何だか納得いかない表情のエミリア。

 だが、とりあえずエミリアから言質はとった。


「あー、あれだ……。喧嘩両成敗って言うだろう?」


 まぁ、本当の意味での両成敗というモノは存在しないが、ここは、テキトーに誤魔化しておくとしよう。


「カズマ?」

「いいから」

「今回は、決闘方式で互いが決闘をして、今回の結末になった。つまり、これ以上、罪を追求するのは、俺の名誉のためにも、よろしくない。だから、俺への今回の暴言については不問にする。だが! 次は、無いから注意してくれ」


 俺の裁定に一瞬、口を開けていた女騎士達がハッ! と、すると、


「それで、いいのですか? 本当に? 女王陛下様の指示と、王女殿下様の――」

「だからいいから。これ以上は、ゴタゴタするのは良くないだろう? 家名が剥奪されたら困るだろう?」

「――ッ! わ、分かりました。カズマ様の恩赦に感謝いたします。お前たち、すぐに医務室に! それでは、カズマ様。失礼致します」


 女騎士達は、倒れている同僚を連れて去っていく。


「カズマ、良かったのですか?」


 エミリアが納得しなさそうな表情をして聞いてくるが、


「まぁ、いまはな……」


 そう、俺は言葉を返した。




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