第123話 エピローグ(1)
しばらく地面に横なっていると、何十人もの冒険者が総督府の存在していた敷地内――、更地になった場所へと入ってくる。
「――い、一体何が起きたんだ!? あの巨大な腕は、一体どこに!?」
一人の冒険者が剣を手に持ち臨戦態勢のまま周囲を見渡している。
その視線は、更地になった場所に座り込んでいた俺達を見つけると走って向かってくる。
「お、おい! こっちに生き残りがいるぞ! 大丈夫か? アンタ……というか……あんたは……、俺達を雇用した――」
「ああ、お疲れ様だな」
俺は四肢に力を入れながら立ち上がる。
「カズマさん」
男の冒険者が叫んだことで俺達に気がついたのか、走って近寄ってくる女性。
それは――。
「ソフィアか」
「はい。それより、あの……、総督府はどうなって――」
「異世界の魔神を、魔王軍四天王の一人アデルデンは自身の命を生贄にして召喚した」
「――え? 魔神って……、魔族の神ということですか? ――そ、それでは、あのプレッシャーは魔神だったからなのですか……」
「何のプレッシャーからは知らないが、そう感じたのなら、そうかも知れないな」
俺は肩を竦める。
それと同時に、俺は気になったことがある。
「ソフィア。町の方の魔物はどうなった?」
「――は、はい。スケルトンに関しては突然、砕けたかと思うと総督府の方へと破片が向かっていきました。ゾンビに関しては、光りが空から降り注ぎ、それにより灰になりました」
「なるほど……。――で、傀儡となった兵士はどうなったんだ?」
「それが……」
ソフィアは、視線をエミリアへと向けた。
何か、あったのか? と、思ってしまうが、ソフィアは意を決したかのように口を開く。
「妖狐族の女性が、束縛されていた魂を解放したと――、傀儡から解かれた兵士の方々が口ずさんでいまして……」
「そうか」
「一体、何が起きたんですか?」
「そうだな……。あくまでも、俺の推測になってしまうが、それでもいいか?」
「……はい」
神妙な面持ちで頷くソフィア。
その表情を見て、俺は口を開いた。
――そして、総督府消滅から2日が経過し――、力を使い果たしたエミリアも昏睡状態から目を覚ました翌朝。
「マスター! 何時まで、ここに居るのだ?」
「仕方がないだろ。冒険者ギルドが、待機していてくれって言っているんだからな」
俺は、銀の宿泊亭の食堂で飯を食いながら、不満そうな顔をしているリオンへ言葉を返す。
リオンも文句を言いながら銀の宿泊亭で出される朝食を口にしながら、まんざらでもない様子だが、やはり水竜だからなのか乾燥地帯でもある城塞都市は水には合わないのだろう。
「ですが!」
「俺だって、さっさと逃げたい」
正直、冒険者に依頼した金額がいくらになるのか想像もつかない。
まぁヤバイときはハイネ領主に全部支払わせればいいだろう。
「えー。カズマおじちゃん、町から出ていくの?」
朝食のパンの追加を持ってきたミエルが、話しかけてくる。
その雰囲気は、以前のように追い詰められていた雰囲気ではなく、年相応の様子だ。
「いや、まだ先だな」
俺は木の皿に乗せられたパンを受け取りながら齧り、言葉を返す。
「そう……なんだ……」
「ミエル。無理は言わないの」
お代わりのスープを持ってきたミエルの母親であるセリアン。
彼女はシュンとした様子のミエルの頭に注意しつつ、「カズマさん、無理を言ってしまってごめんなさいね」と、語り掛けてくる。
「いや、気にしないでください」
まぁ、とくに変なことを言われた訳でもないからな。
「ハハハッ。カズマさん、今日の料理はどうですかな? しばらく、料理をしていなかったのですが――」
「十分、美味しいです」
「そうですか。それより体の方は、もう大丈夫なんですか?」
笑いながら話しかけてきたのは、ミエルの父親。
「まぁ、回復魔法が使えるようになれば問題ないので」
「そうですか。さすが魔王軍を倒せる勇者様は違いますな」
「――いや、俺はただの冒険者なんだが……」
「また謙遜を――」
「マジなことだからな」
「それと……エミリアさん」
「はい?」
俺の横で食事をしていた――、今日の朝まで昏睡していたエミリアに向けて、ミエルの父親は頭を下げた。
「私を――、多くの町の人の命を救ってくれた事を感謝します。おかげで妻や娘と一緒にまた暮らす事が出来るようになりました」
「いえ。お気になさらないでください」
謙遜するエミリア。
どうやら、エミリアは九尾の力で異界の魔神の力を削いだ時、異界の魔神が吸収した魔王軍四天王のアデルデンの力をも削いだらしい。
おかげで、囚われていた人間の魂の束縛を解き――、城塞都市の多くの兵士や民間人を救った。
そして――、その救われた魂は、エミリアの魂と触れ合ったことで彼女に助けられたことを知ったと……。
――そう、冒険者ギルドマスターのラムドと、代理のソフィアは結論付けていた。
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