第122話 VS 異界の魔神
20年という歳月をかけてインフレしていったアルドガルド・オンラインの世界においても最強のレイドボスとして存在する異界の魔神ギガノブロテス。
その力は、一度の攻撃で上位プレイヤ―を根こそぎ消し飛ばす程の力を持つ。
正直、腕を振るうだけで、城塞都市デリアは消し飛ぶ。
そんな桁外れの異界の魔神が数十秒、この世界に召喚されるのは悪夢以外の何物でもない。
「マスター!」
上空でとどまっていた俺に声をかけてきたのは、リオン。
「カズマ!」
そして、その横にはエミリアがいた。
すぐに避難するようにと口を開くが――、城塞都市を一撃で消し飛ばすような異界の魔神から逃げ切ることは不可能。
俺は、空中に土の魔法で足場を作り蹴りつける。
そして――、リオンとエミリアの近くで着陸した。
「マスター、あれは……、一体……」
さすがのリオンも、体を震わせて腕だけが出現している総督府の方を見上げている。
「とりあえず前面に防御魔法を多重展開する。リオンとエミリアは俺の後ろに隠れていろ!」
「だが、マスター。それでは……」
「分かっている!」
恐らく、俺達が助かったとしても城塞都市デリアは消滅し数万人の人間が消し飛ぶ。
だが、俺一人では、アルドガルド・オンラインのエンドコンテンツの一体である異界の魔神ギガノブロテスを倒す事どころか時間稼ぎすらできない。
せめて、弱体化のイベントがあれば、レベル10の属性攻撃魔法で何とかなるが……、そんな都合のいい事が起きることはない!
「エミリアとお前は俺が守る!」
「カズマ!」
視界内のアイコンを無数に起動し多重防御魔法を発動しようとしたところで、エミリアが俺に話しかけてくる。
「なんだ? もう、攻撃モーションに入っている。話しならあとで――」
「私達、妖狐族は――、私の一族は祭祀の家系です。一瞬だけですが九尾の力を借りることで神の力を削ぐ事ができます」
「何を言っている?」
「お願いします。この都市を――、ミエルちゃんやセリアンさんを救う為に、アレを倒してください」
「だが! 削ぐと言っても腕の一振りで町を消し飛ばすほどの化物だぞ! 防御に徹しておいた方がいい」
「マスターよ」
「何だ、リオン」
「妾のマスターが、そのような腑抜けでは困る。マスターは魔神、あれと同等の力を持っていると信じておる。妾も、最強の水竜。巫女に力を増幅することはできる。ならば――、倒すのも一興と言ったところ。この世界の魔神が、異界の魔神を倒す。これほどの戦いが、あろうことか」
「カズマ、皆さんを! この都市を守りましょう! 私は、カズマが知り合った人を必ず助ける人だと信じています!」
「――クッ……」
俺は歯ぎしりしつつ、視界内に開いていた防御系の魔法スキルをキャンセルする。
「分かった。だが、必ず弱体化させろよ?」
「はい!」
「さすがマスター」
「おだてても何もでないからな」
俺は跳躍し風の魔法で、一気に異界の魔神の頭上まで移動する。
穴の底には、異界の魔神が、蠢き、こちらの世界へ這い出てきようとしている姿が見えた。
その姿は、見る物の根源たる恐怖を呼び起こしてくるもので、『状態異常無効化LV10』を持っている俺であっても例外ではない。
だが――、少し離れた場所では祝詞を歌いながら舞を奉納しているエミリアの姿が見えたところで、俺は思わず笑みを浮かべる。
「まったく……、どうして人に嫌われて、人から疎まれているというのに、どうして、あそこまで必死に人を助けようとするのか……」
俺は、エミリアの在り方が妙に気にいった。
俺なら、人から嫌われたら誰かを助けようなんて思わない。
必ず復讐をする。
それは勇者の一人である皆月茜を肉の塊にしたのがいい例だ。
「エミリアを見ていると、俺は自分の器の小ささが分かってしまう。だからこそ――、引かれているのかもな」
俺は、一人呟きながら視界内の魔法欄を高速操作していく。
使う魔法は、俺一人で最強のレイドボスを倒そうと考えていた技だが――、それは弱体化イベントがあった時であっても、異界の魔神の体力を9割削るのが限界だったもの。
「今だけは、全力全開で行く!」
全ての属性の魔法『火・水・地・風・雷・氷』を同時に発動させる術式。
俺のマルチタスクを利用してでも限界を超える魔法。
「九尾降臨!」
高らかに聞こえてくるエミリアの声。
それと共に彼女の――、エミリアの白い巫女服が金色の光を放ち金色の尾が9本、エミリアの背後に出現する。
「祝詞の言霊! 化の物の怪の力を封じよ!」
「マスター! いまだ!」
エミリアが長刀を振り下ろすと同時に金色の極光が、異界の魔神の腕を切り裂くと共に瘴気を打ち払う。
その力はエミリアだけでなく、水色の光も混ざっていた。
おそらく、それは水竜アクアドラゴンの力も混じっているからだろう。
――そして、瘴気の――、黒き靄が消えたのは、アルドガルド・オンラインにおいて異界の魔神の大幅な弱体化が発生した時のエフェクトに相違ない。
「よくやった!
俺は手のひらを穴の底に見える異界の魔神へ向ける。
「吹き飛びやがれ! 全属性LV10! 攻撃魔法融合! ラグナロク・ブラスター!」
全ての上位攻撃魔法を融合した攻撃魔法。
LV10の火属性攻撃魔法であるフレアを中心に5つの属性攻撃魔法を融合させた最大の融合魔法。
それらが、直径100メートルを超える極大の白銀の閃光を伴い異界の魔神の腕を消し飛ばし、その奥に存在する異界の魔神の存在すら莫大にして膨大な光の本流により消滅させると同時に総督府内の穴は、塞がり剥き出しの地面が姿を現した。
その様子を見て、俺は全ての魔力を使い果たし、地面へと着地。
「マスター」
「カズマ」
全ての建造物が消滅した総督府の敷地内で座り込んでいると、エミリアを背負ったリオンがふらついた様子で歩いてくる。
「何とかなったな」
「うむ。さすが、妾のマスター」
「はい。お疲れ様です。カズマ」
「ご苦労だったな……」
俺は、それだけ言葉を返し、その場で倒れ込んだ。
「まったく――しんどいな……」
しかも、完全に魔王軍に目をつけられるとは……。
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