第110話 デリア総督府消滅(10)
「――だが、相手は王族だぞ?」
「冒険者ギルドも国が運営しているんだろう? なら、査察なども出来るはずだ」
「なるほど……。つまり国の機関の一つとして総督府にガサ入れをするようにと話を持ってきたのが真相と言ったところか?」
「まぁ、そうところだな」
「ふむ。だが、カズマ。いま、冒険者ギルドは城塞都市デリア内で出現している魔物の対応で、トップが動けない状況にある。もし総督府のカーネルが権力をチラつかせてきたら、一般の冒険者ではどうにもならないぞ?」
「そうだな。――なら、ソフィアに指揮させればいい。港町ケインが魔王四天王に襲われた時も十分に指揮が出来ていたからな。代わりにラムド、お前が一緒に来い。護衛は俺達がする」
俺の言葉に溜息をつくラムド。
「まったく……。そこまで言われたら行かない訳にはいかんな。ソフィア殿」
「はい」
「城塞都市デリアの冒険者ギルドでトップに流れてくる情報の処理は頼めるか?」
「私は、ケインの冒険者ギルド所属ですが……」
「今は有能な人間を遊ばせている余裕はない。わかるだろう? 冒険者ギルドは、市民に仕事を斡旋するだけでなく兵士と国を守る機関の一つだ」
「……分かりました。――では、ラムドさんからデリアの冒険者ギルド職員の方へお伝え頂けますでしょうか? 私が冒険者ギルドマスターの代行をするという事を」
「もちろんだ。それじゃ付いてきてくれ」
廊下を出ていくラムド。
その後を俺達は付いていく。
そして、冒険者ギルドの受付があるホールへ出たところで――。
「これより、冒険者ギルド、デリア支部は魔物と繋がりがあると思われる総督府へ査察に入る。査察には、この俺! ラムドが直接出向く。その間の冒険者ギルドを取り仕切るのは、ケインの冒険者ギルドにて魔王軍と戦う為に指揮をとったソフィアが俺の代行を行う。文句がある奴は、今のうちに言ってくれ」
ホール中に響き渡る声。
その声に、誰も異論をはさむ者はいない。
魔王軍を退けたとされる冒険者ギルドの港町ケイン支部。
その戦いを指揮した人間が代理として立つなら異論を挟む人間なぞ居る訳がない。
「よし、ソフィア殿。あとは任せた」
「は、はい」
「じゃ、ソフィア。今回も采配期待しているぞ」
「カズマさん……。いつも何か問題ごとばかり起こしていますよね」
「おいおい。俺が悪いような言い方は止めてくれ」
肩を竦めながら答える。
そもそも、今回の問題について俺は一切関わりない。
降りかかった火の粉を払っていたら、こうなっただけだ。
「話は、そのくらいにしておいてくれ。カズマ、まずは総督府まで護衛してくれるんだろう?」
「武器を扱った経験は?」
俺はアイテムボックスからアイアンソードを一本取り出し冒険者ギルドマスターであるラムドへ向かって放り投げる。
「冒険者ギルドマスターにはAランク冒険者以上ではなれない。この意味はわかるな?」
「ああ、十分だ」
つまり、それなりの手練れということだろう。
少なくとも足手纏いにはならないか。
「リオン」
「マスター。何か?」
「馬車の用意を」
「了解致しました」
「あとソフィア」
「はい」
「ミエルとセリアンについては冒険者ギルドの方で保護しておいてくれ」
「それは分かっています。お気をつけて」
「ああ、行ってくる」
俺とエミリア、そしてラムドは冒険者ギルドの建物から出る。
それと同じくして入口前にはリオンが引いてきた幌馬車が停まる。
もちろん引いてきたのはリオン。
それを見て、何か言いたそうな顔を俺に向けてくるラムド。
「突っ込んでいいか?」
「必要ない」
俺はラムドの言葉を一蹴する。
「リオン。総督府までダッシュだ!」
「了解した。マスター!」
一気に荷馬車は加速し、町中を疾走していく。
通りには冒険者達。
そして魔物であるスケルトン。
それだけでなくゾンビたちが無数に蠢いていた。
「やれやれ――。ゾンビまでか」
俺は、溜息をつく。
そんな俺とは対称的にラムドが真剣な表情で魔物の群れを見ながら口を開く。
「これは、相当強力な呪詛使いか――もしくは……魔王四天王の一人が町に来てる可能性があるな」
「魔王軍が?」
「ああ、流石に見た限りでもゾンビの数は、数百は下らない。これだけのゾンビを作り出し操るのは人間だと大がかりな儀式が必要だ」
「つまり魔王軍が絡んでいる方が理に叶っているということか」
「そうなる」
「なるほどな」
俺は同意を示しながら、俺達の行き先に魔物が現れる事に対して違和感を抱いた。
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