第316話 万馬券で一攫千金だっ!

「それにしても――」


 物色をした中で、いくつか分かったことがある。

 それは、自分が居る場所が、徳島県だという事と、廃屋に住んでいたのは小学校5年生の女の子だということだ。

 俺は、小学校で配布された社会科の地図を発見し広げる。

 そして、現住所が、徳島県の、どの辺りなのかを確認していく。


「国道439号線か……」


 問題は、ここから民家があるかどうかだが……。

 地図記号を見る限りでは、県道沿いに進んでもしばらくは何もないように見える。

 ただ神社のマークだけはあるから、人がまったく住んでいないという事は無さそうだ。

 場所を確認し、小学生の女の子が一人だけ暮らしているはずがないと踏み、俺は他の部屋も確認する。

 

「ここは、女の子の両親の部屋か……」


 箪笥の中を確認すれば、女性物の服や下着――、それに男性用の服と下着もある。

 体格は、俺よりも大きいようだが、病院着よりは幾分かはマシだろう。

 茶色のYシャツに、黒のジーパン。

 そして黒のソックスと黒色の上着を羽織ったあと、玄関で運動靴を失敬する。


「悪いな。借りていく」


 そう呟いたあと運動靴を履いて、先ほど入ってきた窓から外へと出る。

 すると、けたたましい音が鼓膜を揺さぶる。


「ヘリコプターの音か……」


 俺は、咄嗟に家から離れて森の中――、木々の上の方の枝へと飛び乗る。

 すると、20秒ほどしてヘリコプターが俺の上空を通り過ぎると、廃屋の上空で停止する。


「本当に発信機がつけられていたのか……」


 呆れたような声で俺は一人突っ込むと、ヘリコプターからロープが垂らされると、何人もの男達がヘリから降下してきた。


「自衛隊……ではないな……」


 以前に、航空自衛隊の富士総合火力演習を見たことがあったが、それとはまったく異なる。

 それに――、


「ここまで、どう来たかは分からないが、実験体099の確保を最優先にしろ。四肢を打ち抜いても構わん。必ず、ここで取り押さえろ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 男達の会話は、日本語ではないが自動的に翻訳されたので、何処の言語かは分からないが、話している内容は理解はできた。


「――さて……」


 これ以上は、ここにいても意味はないだろう。

 とりあえずは、この場から離れて道路沿いに移動するとしようか。

 俺は、兵隊たちを無視し、廃屋から大回りに逃亡を開始した。

 



 国道の横――、木々の枝と枝の上を飛んで移動する事1時間弱。

 ようやくT字路の交差点が見えた。

 もちろんT字路の交差点の一報側――、俺が向かってきた道路側は警察車両によって封鎖されている。

 そして、それ以外の道路では一般車が台数こそ少ないが通行していた。


「それじゃ車が走っている方向へ移動するとするか」


 そう考えた上で、俺は通行止めを行っている警察に見つからないように、一般車両が走る道路に並行する形で木々の上を移動する。

 そうしていると、ガソリンスタンドが見えてくる。

 じっとガソリンスタンドを注視していると不可解な部分が――、


「セルフのガソリンスタンドではないんだな……」


 それに車から降りて電話をしている人の姿も確認できるが、殆どの人間がガラパゴス携帯電話――、通称ガラケーを使っている。

 流石に、ガラケーを殆どの人間が使うのは……。


「とりあえず、今が何時の時期か確認しないとな……」


 ガソリンスタンドに近づく。

 もちろん無属性魔法インビジブルを発動させ姿を隠しながら――。

 そしてガソリンスタンドのレジを確認すると、伝票には2002年4月と書かれていた。


「2002年か……」


 つまり廃屋のカレンダーが1999年12月となると、大体2年ほど廃屋になってから月日が経過しているという事になる。

 そうなると、俺がパソナ・ウェーブの施設に入った時期も大体分かる。


「2年前となると1999年から2000年の間ってことか……」


 その時、俺は、高校は卒業していたはずだが……。

 あとは、大体の時期が分かったので、あとは自宅に戻るための費用を稼ぐことか……。

 実家は、千葉だから数万は必要か。


「――と、なると……」


 稼ぐ方法は幾つかあるが、ここは――。

 俺はガソリンスタンドから出たあと、町の方へと向かう。

 すると、やはりというかなんというか2002年代の古い町並みが目に飛び込んでくる。


「さて――」


 俺は目の前に見えてきた高知競馬場を見上げる。

 お金を稼ぐために競馬場へきた理由は一つある。

それは、俺が考えた最強の金稼ぎプランに基づいてだが……。

 今の俺は正直言って、身寄りがない。

つまり、全うな仕事ができない。

なので、馬を勝たせて一攫千金を狙おうと思ったのだ。

 幸い、廃屋で100円玉1枚だけ手に入れてきた。

 あとは万馬券を何とか作ればいいだけの話だ。

 俺は、高知競馬場で、100円単勝1位で馬券を購入する。

 そして、一番勝率が低い――、俺が購入した馬に対して身体強化魔法をかける! 


「ゲートが開きます!」


 馬が走り出す姿を見て俺は確信する。

 俺の魔法が競走馬にかかっていると。

 そして馬は勝利した。

 もちろん100円の馬券で8900円の払い出しだ。

 それらを3回繰り返せば40万円近くを稼ぐことができた。


「完璧すぎるな……」


 俺は深く帽子を被り目元を隠しながら笑みを浮かべた。


 



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