第37.5話 港町ケイン防衛戦(16)
ケインの町中を走る。
既に町の中は、静まり返っていた。
それは、モンスターが大軍で攻めてくるという事を知らされていたからだろう。
「まったく――」
あの勇者組は何をしているんだと思う反面、『勇者』の称号を持たない俺が真っ先に戦うモンスターの群れが魔王軍だという事に不思議な因果を感じてしまう。
だが――、それだけだ。
「カズマくん」
ケインを取り囲む城壁。
その唯一の出入り口を管理している城から派遣された兵士。
「どうした?」
「君こそ、こんな所で何を――、君は遊撃部隊という事で冒険者ギルドから話は来てるが……」
「だからだ」
「どういうことだ?」
「まだ冒険者ギルドの連中が戦闘の準備をするまで時間が掛かる」
「だが、まだ魔物の群れは――」
「魔物が近くに来たら遊撃は、あまり意味は為さないからな」
「――ま、まさか……。一人で行くつもりか!? モンスターの群れを城壁の上から見たが、その数は万では効かないんだぞ!? 自殺行為だ!」
「だろうな。だが――、何の手立ても冒険者の迎撃準備も終わってない状態で攻められたどうなる?」
「――それは……」
何も言えない兵士に、俺は肩を竦める。
「まぁ気にするな。俺が足止めをする。その間に、冒険者ギルドの連中には、戦闘準備と布陣の展開を徹底させてくれ」
「……わ、分かった……」
震える声。
視線を向ければ唇を血が滲むまで噛みしめている。
「それでは――、門を開け――」
「必要ない」
俺は、5メートル以上はある城壁を何の助走もなく跳躍し、城壁の上へと踊りでる。
そして、視線を北へと向けた。
「前方にはゴブリンの集団か。思ったよりも統率が取れている。それに進軍速度も速い」
ソフィアや、城壁を管理している兵士と会話が長かったこともあり、予想よりも魔物は城壁に近い。
「まったく、俺の柄じゃないんだが……」
俺は目を閉じる。
コレからは、大規模戦闘なんて生やさしい物じゃない。
一対多数どころの騒ぎじゃない。
一対万軍だ。
レベルも一桁。
ゲームとは違いHPやMPを見る事も出来ないからペース配分も出来やしない。
「だが――、知ってしまった。知り合ってしまった。声を交わした連中は多くいて、その中には、俺を助けてくれたエミリアもいる。だから――」
俺は覚悟を込めて息を吸う。
「――全力で行く!」
城壁の上から北側――、つまりモンスターの大軍へと向けて跳躍する。
ステータスである【移動回避力】999が、発動し、俺は城壁の更なる上空まで飛ぶと同時に、眼下に魔物の姿を視界に納める。
それと同時に視界内のコンソールパネルを高速で動かす。
20年という歳月をかけ――、40歳までに鍛えあげた操作スキル。
それは、瞬く間に魔法発動までの遅延を――、タイムラグを減らしていく。
1秒も掛からずに『土魔法LV10』の魔法欄から、LV9の魔法を発動。
「LV9の土属性魔法! キャッスル・オブ・シールド!」
魔法が発動すると同時に、港町ケインを強固な鋼鉄の壁がドーム状に包み込む。
持続時間は1時間。
これで、魔物達はケインを攻撃することは出来ない。
何が起きているのか分からない魔物の群れに向けて、さらに視界内でコンソールから『火魔法LV10』の項目を選択する。
「LV8の火属性攻撃魔法! ファイアトーム!」
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