第94話 ウッドパルプの村から出立

 宴をした翌日。

 俺は、村長クズキリの依頼で、村の防衛に関して土属性魔法で、ウッドパルプの村を囲うようにして壁を作った。

 報酬は金貨30枚ほど。

 討伐より多いのは、何となく納得できなかったが、まぁ良しとしておこう。


 そして、ウッドパルプ村の住民に見送られて、リーン王国の王都へと伸びる東へ向かう街道を走る。


「マスター。些か、人間に対して甘くないか?」


 しばらく走っていた所で、御者席に出てきたリオンが話しかけてくる。

 幸い、エミリアは幌馬車の中で寝ているので、リオンと二人きりになっていた。


「そうか?」

「うむ。オークの件といい、人間に手心を加えすぎておる。人は甘やかされれば勘違いし増長する生き物だ」

「それは知っているさ」


 元の人間社会だって、救いようのない人間ばかりだったし、教師や教育委員会だって人としては不合格な連中が人に物事を教えるというコメディ顔負けな事をしていたからな。


 だが……。


「なら、何故――」

「過去から学び何とかしようと努力するような奴がいるかも知れない。そして、もしかしたら偽善ではなく本当に本物はあるかも知れない」


 俺は自分で言いながら思わず苦笑いしてしまう。

 そんな本物なんて見た事がない。

 日本どころか地球という世界では、偽善を振り翳し利益を求める人の形をした獣が幅を利かせていたし、優しい世界なんて存在しなかった。

 それでも……。


「マスターは、本当に、そんな夢物語のようなことを信じて――」

「信じてないさ」

「では……」

「エミリアが、道理を貫き通したいと言ったからな。たぶん、俺一人だけなら、人には優しくは出来ないと思う。それは、リオンが居たことも含めてな」

「マスター、それは一体……」


 リオンの言葉に俺は肩を竦める。


「さあな……。簡単に言葉に出来たら楽なんだろうが……、俺は捻くれているからな」

「なるほど……」


 リオンは、そう呟きながら頷くと御者席の隣から幌馬車の中へと戻っていく。

 その時、俺の方を一瞬だけ見てくると、口を開き「マスターは人間に絶望しながらも、人間の可能性を信じているのだな」と、呟いてくる。


「そんな大層な考えなんて持ち合わせてはない」

「マスターらしい答えだ」


 そう言い始めて笑顔を俺に向けてくるとリオンは幌馬車の中へと入っていった。

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