第93話 報酬の話

「それじゃ言ってくるか」

「はい。いってらっしゃい」


 エミリアの言葉を背中に受けながら立ち上がり歩く。

 広場の中央部の薪近くに座っていた村長の横へ座る。


「クズキリ」

「何ですかな?」

「先ほど、村から盗まれた物だが、一応、数の確認などをしたところ、洞窟内で見つけた金品と内容が一致した。だから、渡したいと思う」

「なんですと!? それは、どこに?」

「ここにある」


 俺は、アイテムボックスから洞窟内で発見した金貨や銀貨、その他装飾品を出していく。

 その様子に目を見開くウッドパルプ村の村長のクズキリ。


「これは……、まさかSランク冒険者だけが持つという……」


 そういえば、アイテムボックスはアイテム袋と言うことでSランク冒険者だけが持つことが許可されるものだったな。


「これで全部だ。個数が合っているかチェックしてくれ。さっき話してくれた内容と同じだと思うが……」

「――あ、はい。少しお待ちを……」


 呆然としていた村長が、村人を呼び俺が洞窟から持ち帰った金品のチェックを行っていく。

 それを見ながら、俺は酒を飲む。

 それからしばらく時間が経過し、村長が俺の前で頭を下げてくる。


「村を救ってくれたばかりか、盗まれた物まで取り戻して頂くとは……、感謝いたします」

「気にするな。困ったときはお互い様だ。それに、今回のは正式な依頼でもないからな」


 俺は、言葉を返しながら、もったいないとは思ったが、エミリアが返したいと思ったのなら、その気持ちを尊重しようと思っている。


「さすがはSランク冒険者様……。大陸でも数える程しか居ないはずです」


 そこまで持ち上げられるのは、さすがに困る。

 俺の冒険者ランクはDランクだからな。

 まぁ言う必要もないだろう。


 その日の宴は、夜遅くまで続き……、俺達は幌馬車の中で寝泊まりし、朝起きた。

 

「カズマ様」


 幌馬車から降りて背伸びをしていると、俺に話しかけてきたのはクズギリであった。

 昨日は、殿扱いだったというのに。


「何か?」

「カズマ様は、これからどうされるのですか?」

「俺の依頼はリーン王国の王都に行くことだからな」

「なんと!? つまり魔王軍と戦うという事ですか……」


 戦うというか偵察に近いモノがあるんだが……。

 だが勘違いを正す必要もないだろう。


「それでは、娘を連れていってもらえませんかな? 器量も良し! 家庭的で――」

「すまない。俺には妻がいるから、それは無理だ」


 たしかに助けたイーナという女性は可愛いが、俺の嫁さんはエミリアただ一人。

 そこは譲れないし、変わらない。

 

「それは、あの獣人ですかな?」

「そうだな」


 俺の言葉に複雑そうな表情を一瞬だけ浮かべるクズキリ。

 まあ、言いたいことは分かる。

 この国というか、この世界は獣人に対して魔王軍の手先という認識らしいからな。


 ――だが、そんなことは俺にとってはどうでもいい。


 エミリアはエミリアだ。

 それ以上でも、それ以下もない。


「だから、他に嫁は必要ない」

「……わかりました。それと此方を――」

「これは?」


 袋を受け取りながら、俺はクズキリを目を見る。


「今回の報酬です。いくら何でもタダ働きというのは、印象的に良くはありませんので」

「そうか」


 それなら遠慮なくもらっておくとしよう。

 俺は金貨が20枚ほど入った袋をアイテムボックスへと入れる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る