第295話 王墓ダンジョン(10)
「カズマ。大丈夫ですか?」
システムウィンドウを起動させたところで、エミリアの俺を心配する声が聞こえてくる。
「ああ、大丈夫だ」
こういう時に聖職者のスキルがあれば良かったんだが……。
魔法を発動するためのウィンドウを複数同時に開いていく。
発動させる魔法は、回復魔法LV8のフルヒール。
圧倒的な体力=HP回復量を誇り、その回復魔法の量は、ハイヒールの数倍の回復量を誇る。
簡単に言うなら並のゾンビやグールなら一撃で倒すことが出来る。
「フルヒール連打!」
チェーンソードで、デス・ナイトの動きを止めた状態で、回復魔法を連打しまくる。
もちろん、システムウィンドウからのフルヒール発動なのでディレイは発生しない。
ちなみに、俺がフルヒールのディレイなし連打をしている理由は、このアルドガルド・オンラインの世界で出現するBOSSクラスのモンスターには、ダメージ軽減と体力自動回復という厄介なモノがついているから。
中でも、デス・ナイトのダメージリダクション効果は+50と、普通だと殆ど攻撃が通らないほど高い。
まぁ、それもゲームが20年も継続し続けた頃には、無いようなモノになったが……。
ただし、ゲームのサービスが開始されて実装されたばかりの頃のワールド・オブ・ダンジョンでは、装備も高位のモノは無かったので、倒す方法としたら回復魔法でダメージを与えるという戦法が良く取られていた。
それを真似て、俺は回復魔法連打でデス・ナイトを消し飛ばした。
「ふう、中々に厄介だったな……」
さすが、体力1万近くを誇るBOSSだけはあった。
おかげで床に落ちたDROPアイテムは素晴らしいモノがある。
俺は床に落ちたデス・ナイトからのドロップアイテムを拾い上げる。
「倒したのですか?」
「ああ」
「よかったです。何事もなくて……。それよりも、それは?」
エミリアは、俺が拾い上げたモノを興味深々と言った様子で見てくる。
「これは、インビシブルリングだ」
「インビシブルリングですか?」
「ああ。これは姿を消すことが出来る装飾品だな。かなりの希少アイテムだから、エミリアが付けておくといい」
「え?」
「ダンジョンでは何があるかわからないからな。まずはエミリアが身に着けてくれ。お腹の子のためにもな」
「……わかりました」
俺から、指輪を受け取ったエミリアが人差し指にインビジブルリングを装着した途端、その姿が消える。
「どうですか?」
「ああ。確かに見えないな。ただ注意しておくと、この指輪は攻撃を受けた時、そして自身が攻撃をするときには、透明化が解除されるから、そこだけは注意してくれ。ただし、指輪を再度、付け直せば、また透明化するから」
「分かりました。気を付けます」
「それじゃ、先を急ぐか。エミリアは、俺から少し距離をとって歩いていきてくれ。ここの階層からは範囲攻撃をしてくるモンスターが配置されているし、あとネクロマンサーが配置されているかも知れないからな」
エミリアに注意を促したあと、俺はデス・ナイトから取得したデスナイト・フレア・ソードを片手にダンジョン内を先行しつつ、モンスターの群れに突っ込み殲滅していく。
エミリアが魔物のターゲットになるかも知れないという問題があった時には出来ない手法であったが、今なら何の問題もない。
少なくともワールド・オブ・ダンジョン内で、インビジブル効果を看破できるのは三賢者とデス・ナイトだけだからだ。
「ハアアアアアアァ。フォースレイン!」
手に入れた伝説級の武器を3連続で振るう。
それにより、ケロべロスの胴体が3枚下ろしになる。
「何だか、カズマ」
「どうした? エミリア」
何も見えない虚空から聞こえてくるエミリアの声に反応しつつ、俺は伝説級の武器であるデスナイト・フレア・ソードを横一文字に振るう。
それにより、グールの群れが切り裂かれると同時に炎により爆発し炎上し燃え上がる。
「その武器ってすごい強いですね」
「まぁな」
何せ、デスナイト・フレア・ブレードは、ゲーム内でも、15年に渡って最強の一角に君臨していたからな。
さらに強化すれば、火属性魔法LV10のフレアの発動率も%で増えていくというチート武器だった。
なので、エミリアが強いと感じるのも当然と言えば当然だろう。
ゲーム内で取引されていた時は金貨2億枚が必要だったが、こちらの世界で金貨2億枚とか言ったら国が買えるレベルだ。
「売ったら高そうですね」
「この武器は、殆ど言い値みたいな感じになるからな……。欲しい奴は、いくら出しても欲しいと思うからな」
「それはそうですね……。それって、魔法が使えなくても魔法が発動するのですか?」
「そもそも、この武器は魔法が使えない職業が装備するモノだからな……」
「それって……。魔法使いでなくても魔法攻撃が出来るってことですよね!?」
「まぁ、そうなるな……」
「獣人王国にとっては、喉から手が出るほど欲しい武器かも知れません」
「たぶん獣人王国だけでなく魔族からの脅威に晒されている国々からしたら、どこの国も欲しがると思うぞ」
そう、間違いなく……。
この武器の所有権を求めて戦争になるくらいに。
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