第294話 王墓ダンジョン(9)

 エミリアに後ろを任せて先行しつつ、モンスターの索敵をしては、中・遠距離からの魔法攻撃でモンスターを仕留めていく。


「カズマ」

「どうした?」

「モンスターの死体を王墓内に放置するのではなくアイテムボックスに入れていくのはどうしてですか?」

「金になりそうだからだな」

「お金に?」

「モンスターの素材とかお金になるだろ?」

「それは、そうですけど……。グールとかゾンビもですか?」

「グールとゾンビは病原体の巣みたいなモノだからな。だから回収しているだけだ」

「そんな話、聞いたことがないです。それも大国アルドノアで?」

「ああ」


 グール。

それは不死者であり毒を有しているゾンビの上位種。

その爪や歯というのは、毒がある。

そしてその毒を利用して毒系の武器が作れるシステムが追加されたのは、アルドガルド・オンラインのサービスが開始してから10年以上が経過してからだった。

 そして、爪や歯を加工するためには、ダークエルフの里で採れる黒魔石が必要となるが、今は、そこまで話をする必要はないだろう。

 ――というか毒系の武器なんて市政に出回ったら、それこそ大問題だからな。


 覚悟を持ったプレイヤー同士の殺し合い――通称FPK(フィールド・プレイヤー・キラー)でなら、何をしても問題はない。

何故なら、覚悟の上でPK鯖で戦闘をする前提でキャラを作るからだ。

だが、NONPK鯖で、PKの覚悟も無いのに毒武器なんかが市場に出回っていた時は大変な事になった。

アルドガルド・オンラインの世界各地の街や村でNPCだけでなく、まったりと過ごしていたプレイヤーも多くが毒により殺されたからな。

あの時は、阿鼻叫喚の地獄だった。

あれを現実世界とも言える、この世界で体現するのはぞっとしない。


「人間族は、やはり色々と隠しているのですね。勇者召喚の件もそうですし」

「どこの国も隠し事の一つや二つはあるものだからな」


 まぁ、アルドノアについては隠し事がありすぎるどころか問題しかない国だったが……。

 本当に滅んでくれてよかったと思ったほどだ。

 そういえば、アルドガルド・オンラインが正式にサービス開始した頃の世界観には、アルドノアという国は存在していなかったな。


「そうですね……」


 エミリアと会話しながら、狭く入り組んだ迷宮を歩いていき俺は歩みを止めた。


「厄介だな……」

「どうかしたのですか? カズマ」

「デス・ナイトだ」

「デスナイト? ですか?」

「エミリアは知らないのか?」

「はい。初めて聞きました」

「そうか……」


 俺は、アイテムボックスからロングソードを取り出す。

 そして、チラリと見えた灯りの方へ向けて――、


「ファイアーウォール!」


 通路を埋め尽くすほどの炎の壁を作り出した。

 そこに突っ込んでくる鎧――、金属音が擦れる音。


「何の音ですか? 騎士が甲冑を着ているような――」


 エミリアが、そう口にした瞬間、ダンジョン内の迷宮から突然! 光り輝く金色の鎧を纏ったスケルトンが姿を見せる。

スケルトンは、俺たちを見るとカチカチと、骨だけになった歯を鳴らすと、光り輝くブロードソードを片手に突っ込んでくる。


「やはり! 設置系持続魔法じゃ殆どダメージはないか! エミリア、下がってくれ!」

「――え? ――で、でも!?」

「こいつは通常攻撃が範囲攻撃という特性を持っている。お前のお腹にいる赤子に何かあったら俺は悔やんでも悔やみきれない! だから、距離をとってくれ!」

「――ッ!?」


 エミリアが、一瞬、片手で自身のお腹を押さえると、俺から距離を取る。

 それと同時だった。

 俺に肉薄してきたデス・ナイトがすくい上げるような一撃を俺に向けて放ってきたのは。

 すかさず俺は、デス・ナイトが放った一撃をロングソードで受け止めるが、一瞬の拮抗のあと、デス・ナイトが手にしていたブロードソードにより、俺のロングソードが両断された。


「やっぱりか!」


 さらに追撃してくるように頭上からデス・ナイトが白く発光するブロードソードを振り下ろしてくる。

 その攻撃を俺は避けつつ、距離を取るが、俺が居た足元にデス・ナイトが頭上から振り下ろしたブロードソードが突き刺さる。

 それと同時に石畳が爆散する。


「――ちっ。厄介だな……」


 デス・ナイトが手にしている武器は、デスナイト・フレア・ソード。

 アルドガルド・オンラインの世界に置いて長い間、最強と語られてきた伝説の武器の一本。

 まぁ、ガチャが実装されて、そのガチャから排出されてからは、ありふれた武器の一本になってしまったが、それでも、その威力は絶大。

 何せ、追加攻撃で超高温の火属性魔法LV10であるフレアが追加で発動するのだから、チート武器とも言える。

 それにしても……、追加で自動的に魔法が発動するとか、やっぱりチートだな。

 俺はアイテムボックスから、自身が作り出した武器――、ドラゴンナイト専用の武器であるチェーンソードを手にする。


「遠距離武器で対抗するしか方法はないか……」


 俺は、一気に距離を詰めてくるデス・ナイトをチェーンソードで絡めとると同時に――、システムウィンドウを起動させた。

 


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