第228話 森のダークエルフ(1)

 王都リーンを出立して一週間が経過したところで、長く続いていた草原が終わり針葉樹林が視界に入ってきた。


「少し風景が変わったな」

「――え? 何かあったんですか?」


 幌馬車の中からエミリアが顔を出して外を見て目を大きく見開く。


「私の祖国まで、あと少しです!」

「そうなのか?」

「はい! あの針葉樹林は、ダークエルフ族が治めている領土です」

「ダークエルフね」


 たしかアルドガルド・オンラインの世界においてエピソード4から実装された種族で、国を支配する独裁者の暗殺部隊だったか。

 その暗殺部隊として活躍していたのがダークエルフ族で、キャラクターの設定としては軽快な動きと一撃必殺の攻撃を持っているクラス。


「ただ、ダークエルフとは、殆ど会う機会は無いと思います」

「そうなのか?」

「はい。獣人族と違って、その数は1000にも満たないはずですから」

「なるほど……」


 ――というか1000人にも満たない部族なのに、婚姻問題とか大丈夫なのか? と、思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。

 ゲーム時代には気にはしなかったが、やはりリアルになると色々と考えてしまうな。


「マスター」

「どうした? リオン」


 幌馬車を引いていたリオンが、走りながら話しかけてきた。


「森の方で何十人もの気配がありますが?」

「森の方に?」


 俺は視界内のMAPを開き、情報を確認する。

 何もない広い草原では、とくに気にするようなことは無かったが、実際にシステム上のMAPで確認する限りでは、どうやら距離的には10キロほど離れているらしい。

 そして――、視界内には赤い光点が無数に表示されていて――、


「32人か……」

「マスター?」

「カズマ?」

「――いや。どうやら、俺達に敵対意思を持つ連中が前方にいるらしい」

「――え? この辺にはダークエルフしかいないはずですけど……。それに街道に沿って走っていればダークエルフと遭遇するような事はないはずです」

「なるほど。つまり、街道から逸れて移動しているから、遭遇したということか」

「それって……」

「ほら、リーン王国を無断で出てきたからな。国境で捕まるとだるいから、街道は通らずリオンに砂漠の時みたく道を作らせて移動していたんだ」

「だから、ここ一週間、何も追撃というか追っ手というか……」

「だな。だが――、それが裏目に出るとはな」


 森までの距離は、4キロ切った。

 相も変わらず龍が引く幌馬車の移動速度は速いよな。


「どうしたのじゃ? 主殿」


 そこで、ようやくイドルが幌馬車から出てくると、視線を前方に向け――、笑みを浮かべた。


「敵襲ですかな? 主殿」

「わからん。とりあえず警戒しろ」


 まったく、少し前にリーン王国の国境を何事もなく抜けたというのに……。


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